トランプか金正恩か、それとも……。本当に「クレイジー」なのは誰だ:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
相変わらず、トランプ大統領のツイートが話題になっている。北朝鮮に対して過激な発言が続いているが、その裏には何があるのか。ビジネスマンとして成功したトランプ流交渉術のひとつなのかもしれない。
トランプ大統領や金委員長に化かされてしまう
習やプーチンは、金正恩よりまともだから心配する必要がないということだろうか。いや、そうは思えない。例えば金正恩がクレイジーと言われるのは政敵なら誰彼構わず処刑するから……ということなら、習近平もプーチンも間違いなくクレイジーだろう。習は、汚職対策という名目で次々と政敵を排除し、「粛正の嵐」が行われたと指摘された。共産党や軍の大物が次々逮捕され、無期懲役の判決を受けている。
プーチンもしかり。プーチンと対立したロシア人元スパイが放射性物質ポロニウムで殺されたり、反プーチンの政治家が暗殺されるなど政敵やジャーナリストなどを数多く排除してきたとみられており、プーチンは米政府関係者などからは「殺人者」と呼ばれることもある。もちろんどちらとも証拠は残していないが、事件との関係性が広く疑われている。まともではない。
とにかく、金正恩は体制維持のために必要なことを見定めて冷静に実行しているに過ぎない。
北朝鮮が米国などと交戦することになれば、金正恩体制は間違いなく崩壊する。ゆえに、今後も「理性的」な金委員長は戦争を何が何でも回避しようとするだろう。著者は以前からしつこく書いているが、偶発的な出来事が重ならない限り、米朝開戦の可能性は限りなく低い(関連記事)。
とは言え、何も起きないとも思わない。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験、さらに北朝鮮の技術力を信じない人たちに見せつけるため、核弾頭を搭載したミサイルを太平洋に落とすことはやりかねないと思うが、米国が攻撃をしてこないという勝算がなければやらないだろう。協議になった際に有利に運べるように、ちょっとずつ挑発をしながらそのラインを見定めている。
もちろん日本では、国民の不安や懸念が高まりつつあるこの問題について、今やっているような対北朝鮮の議論はどんどんやるべきだ。だが煽りすぎるのも問題で、表面的に見えているものだけに翻弄(ほんろう)されてはいけない。さもないと、計算高いビジネスマンと理性的な男、すなわち、トランプ大統領と金委員長に化かされてしまいかねないのだ。
世界を読み解くニュース・サロン:
今知るべき国際情勢ニュースをピックアップし、少し斜めから分かりやすく解説。国際情勢などというと堅苦しく遠い世界の出来事という印象があるが、ますますグローバル化する世界では、外交から政治、スポーツやエンタメまでが複雑に絡み合い、日本をも巻き込んだ世界秩序を形成している。
欧州ではかつて知的な社交場を“サロン”と呼んだが、これを読めば国際ニュースを読み解くためのさまざまな側面が見えて来るサロン的なコラムを目指す。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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