小田急電鉄の「戦略的ダイヤ改正」を読み解く:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
小田急電鉄は2018年3月のダイヤ改正を発表。4カ月も前に詳細を発表した背景には「4月から小田急沿線で新生活を始めてほしい」という意図がある。混雑緩和だけではなく、増収に結び付ける狙いだ。
江ノ島線を強化する戦略
江ノ島線は、新宿直通列車が増便となる。小田原線で最も速達性の高い「快速急行」が江ノ島線に乗り入れる。複々線の完成でスピードも上がり、新宿までの所要時間が短縮される。これらの施策は東急電鉄を意識している。中央林間駅で東急電鉄の田園都市線に乗り換えてしまう乗客を、小田急線内に留めたい。
江ノ島線の大和駅から小田急本線に乗り継ぎ新宿に行く場合、所要時間は62分。運賃は460円。途中駅の中央林間で田園都市線に乗り換えて渋谷に出る場合は、所要時間は最短で52分。運賃は490円。通勤ラッシュ時の田園都市線は急行が走らないため、所要時間は63分になる。小田急と東急の所要時間と運賃が拮抗している。しかし、小田急電鉄の混雑と遅延に嫌気した乗客が東急田園都市線で渋谷に出るルートを選んでいる可能性は高い。中央林間駅は田園都市線の始発駅だから、小田急から乗り換えた人々は着席機会が多い。
小田急のダイヤ改正で、大和〜新宿間は乗り換えなしの快速急行で最速52分になる。速達性で田園都市線経由と互角になった。ラッシュ時は田園都市線の急行がないため、10分も速くなった。乗り換えなしの直通メリットはある。藤沢始発列車を増発し、着席機会も増やしている。江ノ島線の強化については、乗客の新規獲得というより、「混雑、遅い」を理由に、東急へ逃げていった乗客を取り戻す戦略といえる。
ただし、東急田園都市線も混雑や遅延が問題となっている。停電や車両ボヤ火災による長時間運休も続いた。優雅な多摩田園都市生活も、殺伐とした通勤ラッシュになっている。小田急から田園都市線に乗り換えるメリットは小さくなっている。
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