本当は「長生き」なんてどうでもいい:定年バカ(2/4 ページ)
2017年7月、日本の平均寿命が発表された。男女とも過去最高で、男は80.98歳、女は87.14歳、ともに世界2位である。以前から「長寿大国ニッポン」と呼ばれているが、手放しで喜んでいいのだろうか。
長生きしようがしまいが、同じ死はない
作家で医師の久坂部羊氏は「実際の長生きは苦しい」といっている(『新潮45』2017年6月号)。「できるだけ長生きしたいと思っている人は、たいてい元気なまま長生きできると思っている」。恥ずかしながら、私である。しかし「高齢者医療の経験が長い私には、それが夢想であることは明らかだ。実際の長生きは苦しい。身体が弱り、機能が衰え、生き物としてどんどんダメになっていくのを、日々実感するのが長生きなのだから」。「むろん、元気で長生きな人もいる」が、それは「宝くじを買えば一億円当たる人がいるのと同じ」。
これに関しては多くの異論が存在する。一例として、元は群馬大学の外科医で、現在は緩和ケア診療所を開いている萬田緑平医師はこういっている。「僕が思う理想の死に方は、ピンピンコロリではなく、『ゆっくりコロリ』『じんわりコロリ』です」。萬田医師は、こう続けている。「(それは)決して難しいことではありません。身体に任せればいいだけです。余分な治療、余分な食事、余分な点滴……。そういったものをやめるだけで、多くの人が苦痛から解放され、ぎりぎりまで『ゆっくり』『じんわり』生き抜くことができます」。ただしこういうことも付記している。「すべての看取りにはそれぞれのドラマがあり、一つとして同じものはありません」(『穏やかな死に医療はいらない』朝日新書)
つまり、長生きしようがしまいが、同じ死はないということだ。それでいい。私たちはどんな最後を迎えるかを選ぶことはできない。どんな医療を受け、どんな死に方を望むのか、を選ぶことができるだけである。ところで、久坂部羊氏は近藤誠氏と同じことを言っている。「甘い言葉で誘惑し、ときには不安を煽り立て、偽りの希望と安心を蔓延させて、無用な検査や健診を受けさせ、健康な人間を病人に仕立て上げ、効果も定かでない薬や健康食品を売りまくる。すべては長生き欲につけ込んだ悪辣な商法だ」と。
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