本当は「長生き」なんてどうでもいい:定年バカ(4/4 ページ)
2017年7月、日本の平均寿命が発表された。男女とも過去最高で、男は80.98歳、女は87.14歳、ともに世界2位である。以前から「長寿大国ニッポン」と呼ばれているが、手放しで喜んでいいのだろうか。
ただ元気で生きてくれさえすれば
地元のショッピングモールで、息子さんの両手を引いて、150メートルほどの長い通路を往復しているお父さんがいる。最初に見かけたのはもう何年も前になる。息子さんは十代後半だと思うのだが、スティーヴィー・ワンダーのような黒メガネをかけた顔を天井に向け、小さな歩幅で傾きながら歩いていく。お父さんは私と同年配くらいだろうか。平日の午後、週に何度も見かけるから退職はしていると思われる。お母さんは車いすを押して、2人のあとを付いていくか、テーブルがある席で待っているかしている。
こんなことを勝手に書いて、そのご家族に申し訳ない気がする。しばらくそのモールには行っていなかったのだが、先日また見かけて、まだやっていたのか、と驚いたのだ。もう何年間も続けているに違いない。彼の歩調は以前より少し速くなっているようで、多少は改善したのか、よかったな、と思った。彼の状態がもっとよくなるといいと思うが、気になるのはご両親のほうである。息子さんの疾患がどういうもので、家族がどういう状態なのか、むろんなにも分からない。
もしかしたら、一般家庭よりよほど明るい家庭なのかもしれない。お父さんは交友が広く、酒を飲むのが楽しみで、お母さんはなにか熱中できる趣味をもっているのかもしれない。それでも自分たちがいなくなったら、この子はどうなる? という心配は消えないだろう。お金や健康は自分のためというより、子のために絶対に必要なのだ。状況はそれぞれ違っても、「充実」だの「生きがい」だのというぜいたくとは無縁な、このような心配を抱えた家族は少なくないのではないか。
生きがいというのなら、両親にとって子どもの回復が生きがいなのだろう。生きてくれさえしたら、元気になってくれさえしたら、普通に生きていくことができさえしたら、という最低限の願いは、最大限の願いでもあるのではないか。私はぜいたくなことはいうまい、と思う。
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