「東京も海外も同じ」 ベアレンのビールが岩手に密着する理由:地元が最優先(2/5 ページ)
2001年、盛岡市で創業したクラフトビールメーカーのベアレン醸造所。同社は地域密着を掲げ、地元の人たちに愛されるビール造りを心掛けている。なぜそのことに徹底的にこだわるのか。創業メンバーの1人である専務の嶌田洋一さんに聞いた。
岩手に来ないと手に入らないもの
ベアレンは自社の通販サイトでも一部のビールを販売しているものの、基本的に商品のほとんどはスーパーマーケットなど岩手県内の小売店に出荷している。仮に通販での購入者がすべて県外の人だったとしても、6割以上が県内で飲まれていることになるという。何よりも地元での消費というのが同社のこだわりであり、例えば今夏に商品が欠品しそうになったときも、まずは県外の得意先から卸すのを断ったそうだ。
「東京の人は何でも東京で手に入ると思っているので、例えば地元のイベントで出したビールをネットでも買えないんですかという問い合わせがよく寄せられます。そのときは岩手まで飲みに来てくださいと答えてますよ。ここに来ないと得られないというものがあるのですから」
嶌田さんは続ける。
「人によっては内需と外需は別々に考えるべきと言いますが、私は内需の先に外需があると思います。まず地元の人が好きになって、そこから外に伝えていく形が好ましいです。ベアレンのビールも地域の人たちがおいしいと思ってくれることが大事です」
この徹底した地元志向は入社してくる社員の傾向にも表れている。現在はアルバイトを含めて50人以上のスタッフがいるが、最近は岩手を盛り上げたい、地方から発信していきたいという理由でベアレンを志望する人が増えているそうだ。以前は単にビールに関わる仕事がしたいという人が多かったが、会社としてもそうした人は積極的には採用しないようにしているという。「自分が好きな世界が固まっていると、なかなか発想に広がりが出ません。それはベアレンのやり方に合わないと思います」と嶌田さんは話す。
こうした取り組みを通じて、ベアレンのビールが地元の文化として根付きつつある。嶌田さんは自社の直営レストランに行ったときにそれを強く感じることがある。
「いわゆるクラフトビールマニアや愛好家のような人ではなく、会社帰りの普通のサラリーマンが自然と楽しんでいる光景をよく目にします。店に行くと顔見知りに声を掛けられることもしばしば。地元の人にとってビールの造り手の顔が見える、そしてビールのストーリーが見えるのは良いことだと思いますし、私たち造り手も彼らとともにベアレンのストーリーを共有して生きているのだなと実感します」
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