「東京も海外も同じ」 ベアレンのビールが岩手に密着する理由:地元が最優先(5/5 ページ)
2001年、盛岡市で創業したクラフトビールメーカーのベアレン醸造所。同社は地域密着を掲げ、地元の人たちに愛されるビール造りを心掛けている。なぜそのことに徹底的にこだわるのか。創業メンバーの1人である専務の嶌田洋一さんに聞いた。
クラフトビール業界の課題
今、クラフトビールはブームだと騒がれているが、嶌田さんの目は現実を直視している。
クラフトビールが売れている、注目されていると言われながらも、成功事例は少なく、まだ広まりが見えていないという。オクトーバーフェストのようなビアフェスには多くの人が来るし、都内にもクラフトビールの専門店が増えているが、そこから一歩踏み出せていないと感じている。実際、前年の収益を下回っている専門店が出てきているなど、各現場が手詰まり感を持っているという。
「まだクラフトビールが世に生まれてから20年ちょっとです。どんどんその必要性を作り、各メーカーが新しい可能性を見出していくべきだと感じています。伝統産業を守るのではなく、新たな市場を切り開いていくわけですから、果敢にチャレンジしなければなりません」と嶌田さんは強調する。
ベアレンは創業以来、他人のモノマネではなく自分たちのやり方で成功をつかみたいと決めている。成功例の1つが「父の日」のギフトとしてクラフトビールを消費者に提案したことだ。今でこそ他社も同様の取り組みをして業界内では大きなイベントになっているが、ベアレンがやり始めた当時はほかに誰もやっていなかった。メーカーそれぞれが今の成功体験に甘んずることなく、どんどんチャレンジしないと市場の成長はないと、嶌田さんは厳しく見ている。
そうした中、同社は今年10月、盛岡市内にパブブルワリー「菜園マイクロブルワリーwith Kitchen」をオープンした。ここの施設では従来の10分の1以下の量でビールを仕込むことができるので、今までアイデアレベルでとどまっていた、あるいは売れるかどうか不安に感じていたようなビールを次々と試していきたいとする。ベアレンのビールは現在約40種類あるが、パブブルワリーでは毎週新しいビールを仕込んで、年間100種類ほどに増やす考えだ。
嶌田さんは前職時代、ワインの仕事に携わっていて、日本で赤ワインブームが起きたときの状況を間近で見ていた。そのとき分かったのは、ブームというのは複数の要素が重なり合って起きるということである。赤ワインに含まれるポリフェノールが健康に良いということがブームの引き金になったが、時を同じくして、安くて高品質なチリワインが日本に入ってきたり、世界一を獲った日本人ソムリエが注目されたりと、いくつかのきっかけがあったのだという。
クラフトビールも絶対に大ブームが来ると嶌田さんは信じている。そのために業界として準備をしておかないと、一過性のもので終わってしまい、文化として日本に根付かないと危惧する。
「クラフトビールの伸び代はいくらでもあります。あれこれと手を尽くして、もうどうにもならないという状態ではまったくありません。これからもっと面白いことが起きますよ」
こう力強く語った嶌田さん。岩手の人たちに愛されるクラフトビールの会社は、広くてまだ未開拓な世界をこれからも自己流で突き進んでいく。
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