「ゲリラ・ジャーナリスト」が日本に上陸する日:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
米国で「ゲリラ・ジャーナリスト」が話題になっていることをご存じだろうか。ジャーナリストの手法とは呼べない無茶苦茶なやり方で、大手メディアの記者などを標的にして、トンデモな映像を公開している。もしゲリラ・ジャーナリストが日本に上陸したら……。
次の標的は「ビジネスパーソン」か
こうしたオキーフの活動を見ていて感じるのは、日本でも同じような活動がいつ起きてもおかしくないのではないか、ということだ。
例えば、スクープネタを餌に新聞やテレビの記者、週刊誌記者などを引っ掛け、実際に会ったりしてやりとりをする中で、普段は聞けない記者たちの「不都合」な本音を引き出す。
もちろん記者も人間であり、会社の方針に不満もあれば、上司に対する愚痴の1つや2つあるだろう。それを都合よく編集(捏造)し、自ら立ち上げた動画チャンネルで公表する。ユーチューバーなどが社会的に認知されている今、そんな動画を次々とアップする人が出てきてもおかしくない。そしてそれを、「リベラル(または保守)メディアの実態を暴くためだ」などと社会的に有意義で公益性のある活動だと主張すれば、それを応援する、または寄付をしたい人たちが現れる可能性だって考えられる。
これはある意味で一部のメディアがやっていることに通じる。結論ありきで取材をし、事実やコメントを都合良く解釈し、意図的に編集をして報じる――時々そんなやり方をする一部メディア関係者が批判されることがある。ただジャーナリストならば、メディアの役割を自覚し、社会や政治の「活動」にならないように記事に多角的な見方を織り交ぜ、バランスをもたせたりするのが理想的だ。さらにフェアな取材は必須だ。
ただオキーフのような人物にはそんな「きれいごと」は無意味だ。標的は、マスメディアの記者だけでなく、ビジネスパーソンなども含まれるかもしれない。客の顔をして近付き、だまし討ちで本音を聞き出して悪意ある編集をし、「大手◯◯商社の騙しテクニック」などと動画でアップされるかもしれないのである。話題になれば、「ゲリラ・ジャーナリスト」の勝利、なのである。
日本にもそんな活動がいつ上陸するかもしれない。ビジネスパーソンからメディアの記者まで、私たちはそうした社会にいることを改めて自覚したほうがいいかもしれない。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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