トヨタがレースカーにナンバーを付けて売る理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
東京オートサロンのプレスカンファレンスで、トヨタはとんでもないクルマを披露した。「GRスーパースポーツコンセプト」。FIA世界耐久選手権(WEC)に出場したTS050 HYBRIDをわずかにアレンジしたもので、お金さえ払えばほぼ同じものが買えるというのだ。
ハイブリッドのイメージを再興する
さて、そうするとトヨタに何のメリットがあるのか? 恐らく販売による利益は出ない。とはいえ、基本コンポーネンツはすでにレース用に開発済みの手持ちである。ハンドメイドで対応可能な限定生産なら持ち出しは多くない。ル・マンカー譲りのその強烈な性能は世界の注目を集めるだろうし、ハイブリッドの未来をこれ以上ない形でアピールするだろう。
それはトヨタがテスラから学んだ手法だと言える。「トロ臭いEV」というイメージを覆すため、テスラは動力性能にこだわり続けている。どのモデルも圧倒的に速い。そうでなくてはEVはコモディティ化してしまう。豊田章男社長が「EVは味付けをするのが難しい」と言ったことがあるが、現時点での最も効果的な出口は動力性能の引き上げだ。いかに電費が悪かろうと、電気はゼロエミッションという、「発電での環境負荷を切り離したフィクション」の中では全然気にすることはない。
トヨタは、走る発電所であり、ル・マンカーであるというこのジキル&ハイドなスーパースポーツでテスラより正直なハイパフォーマンスカーを仕立てるつもりなのだ。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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