東京都の「選ばれし6路線」は実現するのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
東京都は「平成30年度予算案」に「東京都鉄道新線建設等準備基金(仮称)」の創設を盛り込んだ。2016年に交通政策審議会が答申第198号で示した24項目のうち、6路線の整備を加速する。6路線が選ばれた理由と、選ばれなかった路線を知りたい。
「基金」とはなにか
選ばれし6路線の概算建設費用の合計は1兆100億円だ。これに対して東京都が用意する基金は約620億円。足りない。しかし、この基金で6路線の建設費を全額まかなうわけではない。「都市鉄道利便増進事業費補助」は国から3分の1、「地下高速鉄道整備事業費補助」は国から35%の補助制度がある。大手私鉄の路線改良事業なども含めて、鉄道事業者、国、自治体が3分の1ずつ負担するというイメージだ。
もっとも、620億円の3倍でも1860億円だ。やっぱり足りない。ただし、この基金は単年度で6路線をなんとかしようという仕組みではない。自治体の基金とは、簡単に言えば目的型積立預金口座だ。単年度で使わない予算を、目的を明確にして保存する。それが基金の役割だ。東京都は2019年度以降も「東京都鉄道新線建設等準備基金(仮称)」に資金を投入するだろう。それは東京メトロ株の配当だけかもしれないし、余った予算を注ぎ込むかもしれない。もちろん議会の承認を得て、全ては明朗会計で行われる。
東京都が「東京都鉄道新線建設等準備基金(仮称)」を創設した理由は、単なる貯金でもないだろう。その鉄道を管轄する鉄道事業者や自治体に対して「始めるぞ!」という意志を示した。JR東日本は羽田アクセス線について「自治体の支援があれば構想を計画に進めたい」という態度だった。東京都が基金を組んだからには「言ってみただけ」というわけにはいかない。
選ばれし6路線は、実現に向けて大きな一歩を踏み出したといえる。
自治体の基金は「特定の用途に充てるため、他の財産と区分して保有する金銭」。この資料は、国から地方交付税交付金を得ている地方自治体が基金を増やし、貯金があるにもかかわらず、国に地方交付税交付金を要求する状況を問題視している。ちなみに東京都は地方交付税交付金を受け取っていない。基金の財源は議会で決める(出典:内閣府)
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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