自己成長するAIは「医療機器」として安全なのか:“いま”が分かるビジネス塾(2/3 ページ)
多くの業界でAIによる従来業務の置き換えが検討されているが、医療はこうした動きが激しい業界の1つである。特に診断の領域では、AIが医師に圧勝するケースが続出しており、業務のAI化が一気に進みそうな状況となっている。業務のどの範囲までAI化を行い、人の責任の範囲をどこまで設定すべきなのか。医療分野における取り組みはあらゆる業界にとって参考となるだろう。
医療現場でAIをどう位置付ける?
だが理屈上、医師の業務の多くをAIで代替することができたとしても大きな問題が残る。それは診断の最終的な責任を誰が負うのかという話である。
この点について厚生労働省は、AI時代においても、全ては医師主導で医療業務を進めるとの方向性を打ち出している。同省の有識者会議がまとめた報告書では、AIの医療業務への応用について以下のような提言が行われた。
- 現状ではAIが単独で診断を行っているわけではないので、AIの判定結果には誤りがあり得る
- 診断の確定や治療方針の最終的な意思決定は医師が行う
- 意思決定の責任も医師が負う
- AI開発には医師が深く関与する
極めて常識的な内容であり、この考え方に異論を挟む人はほとんどいないだろう。ただAIの進歩が急ピッチで進むことを考えると、次のフェーズにどう対応するのかについても、今から議論しておく必要がありそうだ。
米国では16年12月に「The 21st Century Cures Act(21世紀医療法)」という法律が施行された。この法律は、イノベーションの進展に合わせ、医薬品や医療機器の開発、審査をスピードアップすることを目的としたものだが、注目すべき点はAIに関連した項目である。いくつかの要件を満たしたAIは、医療機器に該当しないことが明文化されたのである。
医療機器と認定された場合、メーカーが製品を販売するには、当局の審査を受ける必要がある。役所の審査基準は安全が第一であり、技術の安全性や効果が十分に立証されたものに限定される。つまり医療機器である限り、基本的には現状(医療機器と認定されたときの状態)がベースということならざるを得ない。
だが、AIの場合にはディープラーニング(深層学習)機能を活用することで、自ら新しいデータを取り込み、能力を向上させることが可能となる。しかもディープラーニングの場合、なぜそのような分析結果になったのか、人間がすぐに判断できないケースも多い。
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