自己成長するAIは「医療機器」として安全なのか:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
多くの業界でAIによる従来業務の置き換えが検討されているが、医療はこうした動きが激しい業界の1つである。特に診断の領域では、AIが医師に圧勝するケースが続出しており、業務のAI化が一気に進みそうな状況となっている。業務のどの範囲までAI化を行い、人の責任の範囲をどこまで設定すべきなのか。医療分野における取り組みはあらゆる業界にとって参考となるだろう。
医療機器としての品質をどう担保するか
17年1月、米国のFDA(米国食品医薬品局)が、ベンチャー企業が開発した心臓のMRIデータの解析システムを医療機器として正式に認可したことが話題となった。
このシステムはディープラーニング技術を用いており、AIがどのような理由で診断を下したのか人間がすぐに知ることはできない。現時点では解析能力の高さが従来基準で評価されたことで認可されたわけだが、この機器は、これからディープラーニングを用いて日々能力を向上させていくことになる。数年後には今とはまったく違った機器に成長しているかもしれない。
進化したこの機器は、果たして認可された時点における医療機器と同じとものと見なしてよいのかという疑問が出てくる。
AIを用いた機器類が自己進化し、常に能力を向上させるものだとすると、審査という制度そのものが意味をなくしてしまう。一方で、審査基準にメーカー側が縛られてしまうと、AI技術の発展にブレーキをかけてしまう可能性もあるだろう。
21世紀医療法の施行に際してはIT企業が猛烈なロビー活動を行い、AIを医療機器から除外する流れを作ったともいわれる。野放図な開発や医療への応用が許容されないのは当然のことだが、IT企業側の主張も理解できる。
自己学習する機能があり、人間以上の能力を発揮する可能性がある医療用AIについて、その品質をどう担保するのか、今から議論していく必要がありそうだ。またこの話はあらゆる業界にとって共通のテーマでもある。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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