手間をかけて“心に残る”旅を企画 「鉄旅オブザイヤー」優秀ツアーとは:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
旅行会社が開催した「鉄道好き企画旅行」のコンテスト「鉄旅オブザイヤー2017」。今回は審査員を務めた筆者が、受賞作品や受賞しなかった優秀作を紹介する。
旅行会社部門 準グランプリ
『出発進行!読売旅行貸切 銚子電鉄七夕列車と 銚子・夏のおもてなし』(読売旅行・銚子電鉄)
千葉県の銚子電鉄の貸し切り列車と、沿線の名所を巡る貸し切りバスを組み合わせた日帰りツアー。起点は銚子駅だけど、千葉県内をはじめ首都圏各地からの交通費もセットにしたパッケージ。日帰りという手軽さ、景勝地もしっかり押さえたバスツアーの組み合わせなどで、1人旅では手配が面倒な旅をまとめた。
参加総数約1500人、売り上げは1462万円。客単価は1万円に満たないけれど、丁寧に集客すればまとまったビジネスになる。バス30台動員という規模もすごい。銚子電鉄の外川駅には観光バスを停める場所がなく、昼食会の確保も苦心した。交渉相手からは「銚子電鉄を盛り上げたいなら、という声が聞けた」という。バスが特定の場所に集中しないように、周遊コースも複数のパターンを用意する。手間をかけ、難所を1つ1つ交渉する。それは個人、グループ旅行ではできない。プロの仕事だ。
旅行会社部門 審査員特別賞
『赤い風船45周年 JR東日本×JR西日本×日本旅行共同企画 団体貸切!北陸新幹線で行くJapanese Beauty Hokuriku〜日本の美は北陸にあり〜』(日本旅行)
東京駅〜金沢駅の北陸新幹線貸し切り列車を確保した1泊2日ツアー。現地自由行動のフリープラン、団体旅行販売の他に、石川県コースとして「往復グランクラスと観光列車花嫁のれん」、福井県コースとして「えちぜん鉄道運転体験と貸切きょうりゅう電車で行く恐竜博物館」、富山県コースとして「観光列車ベル・モンターニュ・エ・メール号と世界遺産五箇山合掌集落」を用意した。
北陸新幹線のE7系/W7系電車の定員は900人以上。これだけの席を埋めようとすれば、同一コースだけでは不可能。そこで複数の参加メニューを用意した。これだけなら、よくありがちな団体貸し切り列車ツアーだ。しかし、全てのメニューに共通の「乗車時間」に工夫がある。金沢の伝統工芸「金箔(きんぱく)」貼り体験、北陸3県のお菓子食べ比べ、あわら温泉女将(おかみ)の会による北陸銘酒の振る舞い酒、富山・五箇山「こきりこ節」、北陸3県の銘酒で利き酒バー車両を設定、お楽しみ抽選会など。
普通の団体貸し切り車両ツアーなら、往復の車中は「運ばれるだけ」。各自駅弁と酒を用意して、グループ客ならおしゃべり、あるいはうたた寝となるところ、これでもかというほどエンターテインメントを繰り出した。それもひとえに「トンネルの多い車中を楽しんでもらいたいから」とのこと。ひと手間もふた手間もかけている。
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