資金調達の「常識」が変わろうとしている:財務特集スタート(5/5 ページ)
資金調達を巡るパラダイムシフトが起きている。背景にあるのは、金融とITを結び付ける新しいテクノロジーの台頭である。資本は経済の原動力であり、その流れが変わるということは、ビジネスの仕組みそのもにも影響が及ぶ。新しい資金調達の手法やその可能性、そしてリスクについてまとめた。
形式ではなく本質で判断することが重要
つまり投資家は、純粋に応援したい気持ちから疑似株式を買い、ここに、純粋に値上がりを期待する投資家が参加することで市場が形成されている。従来の利益配分を前提にした株式市場とは概念が異なっているのだ。あえて言えば、トレーディングカード(トレカ)のようなものであり、個人の人気を証券化したものといってよいだろう。
こうしたスキームが成立すると、見返りを求めない資金というものが存在する余地が出てくることになり、対価が発生しない金融商品でも市場としての機能を果たすことになる。
NPOなど非営利団体はもちろんのこと、営利企業の中からも、このスキームを積極的に利用するところが出てくるかもしれない。また企業が保有するキャラクターや、SNSで人気が出ているスター社員をVALUのようなプラットフォームに上場させるという選択肢もあり得ることになる。
重要なのは、これまで不可能だったスキームが、イノベーションによって意図も簡単にできてしまうという現実である。これは不可逆的な現象であり、時代の流れを止めることはできない。
現実を受け入れた上で、消費者や投資家を保護するためには、どうするのがもっともよいのか社会全体で議論していく必要がある。また、新しい技術を利用する企業の側は、形式ではなく本質が何なのかについて十分に吟味した上で、ビジネスに活用していくことが重要だろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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