2015年7月27日以前の記事
検索
連載

現場から見たトヨタ生産方式 トヨタ副社長インタビュー(1)池田直渡「週刊モータージャーナル」【番外編】(3/4 ページ)

トヨタ生産方式は、世界のビジネスに多大な影響を与えた生産メソッドだ。トヨタ生産方式の重要な原点の1つに「にんべん」の付いた自働化とカイゼンがある。ロボット時代の自働化とカイゼンとは果たしてどんなものなのか?

Share
Tweet
LINE
Hatena
-

河合: その通りです。多面性という意味では今、環境もとても重要です。トヨタは2050年から二酸化炭素(CO2)排出をゼロにすると宣言しています。例えば、トヨタは今、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)のエンジン組み付けラインを全世界で作っています。環境のことを考えると、搬送みたいなものは無駄なんです。生産現場から見たトヨタ生産方式というのは、製品が売れる速さで常に流れながら加工されて形を変えていくということなんです。

 形を変えずに流れていく搬送とか、品質チェックみたいなものは何も形が変わってないから付加価値がない。例えば、個別の生産工程に完璧に仕上げる本当の力があれば、検査なんて必要ないんです。CO2排出ゼロを目指すなら、そういう付加価値のないところに動力なんか使っちゃいけません。

池田: それは気付きませんでした。付加価値と動力の関係は面白いです。しかし誰だってわざわざ複雑なシステムを作ろうとしているわけではないですよね? それを多方面に配慮しながらシンプル化するのは難しいことのように聞こえるのですが。

河合: 複雑な設備になると、それを頭だけで考えるとむちゃくちゃ難しい設備になるんです。でも、人が工夫をして、人間がやっている勘やコツをうまく使うと簡単にできるんです。

 例えば、直径10ミリメートルの穴に9ミリの丸棒を差し込むとき、両側に0.5ミリしか隙間がありません。これを生産技術屋が計算だけでやると、ロボットの精度をすごく上げて、ピタッと正確な位置に挿し込もうとするんです。でも同じことを現場で人間がやるとき、両側に正確にクリアランスを取って入れようとか絶対しません。片側に寄せる。だったら反対側に1ミリ空くじゃないですか。そしたら簡単なんですよ。だからそういうことをどんどん織り込むと、設備ってどんどん簡単になるんです。

池田: 無駄を発見して、排除していくために現場の勘やコツを使うのですね。

河合: どう使うか、何が必要かを判断することは大事です。生産技術のエンジニアはどうしても理詰めになるんです。こないだも立派な生産機械を作ったら800万円かかったんです。これを技能職の連中に同じ作業サイクルがからくりでできる仕掛けを作れと言ったら80万円でできた。

トヨタの自動車生産のラインで用いられている「からくり」という仕組み。定期的にコンテストが開かれている。これはインドで出品されたからくりの1つ

 あるいは2000万円もする計測器を入れてテストをやっているから、「何でそんな高い機械がいるんだ。入れちゃいかん。自分たちで使う機能を全部チェックしろ!」と言って、全部ひも解いて調べさせたら、使っている機能はわずか2つくらいしかない。その機能だけあればいいんだろということで計測器を作ったら200万円で済みました。

 そんなものボクのスマホと一緒で、あれもできます、これもできますといろいろな機能が付いているけど、使っちゃいない。売り込みにだまされて使わない機能を買わされているだけですよ。

池田: なるほど。つまり現場の人たちが当たり前にやっていることを自働化の手本としてうまく組み込んでいくということですね。それは確かにカイゼンです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る