日本ハム本拠地移転、JR北海道はチャンスを生かせるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
日本ハムが本拠地球場を北広島市へ移転するという。新たな拠点はJR千歳線の線路ぎわだ。しかしJR北海道社長は新駅設置に慎重な姿勢と報道されている。素直に北広島市の歓迎ムードに乗じておけばイメージアップにつながるだろうに。残念な発言だ。
ボールパーク新駅が魅力的な理由
集客施設の新駅設置で真っ先に思い出した事例が、JR東海の三河塩津駅だ。愛知県蒲郡市にある蒲郡競艇場の最寄り駅。競艇場の向こう、海寄りには埋め立て地と工場団地がある。東海道本線の線路ぎわで、名古屋鉄道が蒲郡競艇場を置いている。JR東海は1988年にここに新駅として三河塩津駅を設置した。1日平均乗車人員は1500人以下で規模は小さく、2017年は無人駅になるなど尻すぼみ感はある。それでも競艇開催時は臨時職員が派遣されるという。1日平均乗車人員も、競艇開催時と非開催時で大きな差があると思われる(詳しくは関連記事:なぜそこに駅はできるのか?)
三河塩津駅の設置によって名鉄蒲郡線は窮地に立たされ、存廃問題も起きている。えげつないと思うけれど、JR東海の戦略が効いている。集客施設付近に、国のご意向とは関係なしに駅を設置できる。これは国鉄が民営化され、身動きが取りやすくなった証しとも言える。JR東海はチャンスを生かしたわけだ。JR北海道にとっても、北広島ボールパーク新駅はチャンスのはずだ。
蒲郡競艇場と北広島ボールパークを比較してみよう。蒲郡競艇の開催日は年間190〜200日。北広島スタジアムの野球開催日は年間50〜60日。これが駅をフル稼働する日となるだろうから、ボールパーク新駅のフル稼働日は三河塩津駅の4分の1程度となる。ただし、ボールパークは常設のショッピングモールやホテルもある。野球の試合がない日も集客を見込めるし、ホテルとショッピングモールの設置によって、スタジアムも野球以外の需要を生むだろう。
試合の観客数は、蒲郡競艇場の収容人数が1万人、札幌ドーム開催時の観客動員は約3万人。この比率だけで言えば、ボールパーク新駅の利用者は三河塩津駅の3倍だ。1日平均乗車人員としては4000人程度。もちろん稼働日は相当な混雑が予想される。駐車場を比較すると、蒲郡競艇場は乗用車3620台。北広島ボールパークは5000台を予定する。北広島ボールパークは「クルマで行けるスタジアム」をうたっているけれども、来場者数に対して駐車場の比率がまだ少ない。公共交通機関にとって、これほど活躍のチャンスがある地方集客施設は珍しい。
こういう状況の中で、JR北海道は「作ってほしいというなら建設費を出してね」というスタンスだけでいることが嘆かわしい。「当社も魅力を感じている。ぜひ新駅を作らせてほしい。ただし、当社の事情も鑑み、ある程度の地元負担はお願いしたい」と素直な姿勢で臨んだほうがいい。協力的な態度を示した上で、ショッピングモールへの関連会社出店の確約を取るほうが賢いと思う。
関連記事
- 北海道新幹線「札幌駅」地下案はダメ、ゼッタイ!
北海道新幹線の札幌駅プラットホームは、2012年に在来線プラットホームを転用する案で工事計画が認可された。しかし2年前の夏、JR北海道が原案をひっくり返してから大混乱に。このままでは妥協案として、かなり不便な地下駅になりそうだ。新幹線地下駅は北海道を死に導く。そこは、最善の選択ができなかった愚か者たちの棺おけも同然のハコになるだろう。 - なぜ時刻表に“謎ダイヤ”が存在するのか
鉄道の時刻表を調べる際、スマホで検索している人が多いだろうが、実は紙の時刻表をじっくり見ると、興味深い情報がたくさんある。例えば、実際に走っていない特急が走っていることも。どういうことか。『JTB時刻表』の大内編集長に、謎ダイヤの真相を聞いた。 - 「札幌駅に北海道新幹線のホームを作れない」は本当か?
JR北海道が「北海道新幹線の札幌駅は在来線に隣接できない」と言い出した。既定路線の撤回であり、乗り換えの利便性も低下する。札幌市と建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が反発している。JR北海道の言い分「在来線の運行に支障がある」、これは本当だろうか。駅の線路配線図とダイヤから検証してみよう。 - なぜ地図で「浅草寺」を真ん中にしてはいけないのか
地図を作成している編集者に、2枚の地図を見せてもらった。1枚は浅草寺が真ん中に位置していて、もう1枚は浅草寺が北のほうにある。さて、実際に地図に掲載されているのは、どちらなのか。答えを聞いたところ、予想外の結果に!? - 12万枚突破 JR北海道「わがまちご当地入場券」の懸念
JR北海道で久々に明るい話題だ。沿線の101市町村と連携して制作、販売する切符の売れ行きが好調。額面は170円、12万枚も発行して2040万円の売り上げとなっている。しかし、地域との付き合い方を失敗すると、JR北海道は信頼を失いかねない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.