「あるはずの駅がない」? “観光用路線図”のヒミツ:あなたの知らない路線図の世界(2/2 ページ)
用途と目的によって姿を変える路線図。外国人観光客向けに作られた路線図は、普段私たちが触れているのとは違った景色を見せてくれる。中には「天狗」が登場する路線図も……?
観光用路線図には、代表的なスポットが写真やイラストで記載されているものもある。広島なら原爆ドームや宮島、東京なら歌舞伎座や中野ブロードウェイ――と、制作者の「日本のどこを見てほしいか」という思いを感じることができる。
同じ東京でも「選択と集中」を行っているのが東京メトロの「TOKYO Travel MAP」。メインの路線を4つのみ。渋谷や原宿を「Cool Tokyo」、六本木を「Night Life」など、ランドマークを4つのエリアに分類した。秋葉原にメイド、高尾山に天狗(てんぐ)がいる……のは少し誤解も生じそうだが、非常にユニークだ。
路線の選択肢を絞ることで、「ここに行きたい」と思ったときに迷わずルートを選ぶことができるだろう。観光客のニーズに合わせた「選択と集中」をすることで、移動にかかる負荷を軽減する狙いがそこにある。
工事の周知、乗換経路、徒歩の分数……駅からのメッセージ
意図が込められた路線図は「観光用路線図」ばかりではない。「工事のお知らせ」の路線図もその1つだ。
渋谷駅の線路切り替え工事に伴う銀座線運休の案内を見てみよう。ここにも路線図があり、その意図はもちろん「迂回(うかい)路を示す」こと。中央に主役となる銀座線が真っすぐに鎮座し、その周りを丸ノ内線や千代田線が縫うように走るという、めったに見られない構図だ。こうした「工事のお知らせ」路線図は短期間しか掲示されないため、路線図マニアにとってはかなりのレアものでもある。
「お知らせ」という意味では、「乗車時間や乗換を知らせるために駅員が用意した路線図」というのもある。おそらく乗客から問合せが多いために、自主的に案内を作って掲示したものだろう。そこには「問合せ対応にかかる時間の削減」という意図がある。オフィスソフトで作ったと思わしき、手作り感あふれる路線図にも味がある。
最後に海外の事例から。ロンドン交通局では、通常の路線図の他に「地下鉄駅間の徒歩時間」を記載した路線図も配布している。乗客の要望から生まれたもので、これがあれば「地下深くに潜るより歩いたほうが早い」と判断することができる。視認性向上のために簡略化されたデザインとリアルな時間軸が混在する、珍しい路線図だ。
路線図はその用途ごとに姿を変え、そこには制作者のメッセージが込められている。図形と線の組合せに、もう1つ「意図」というレイヤーを加えることで、多彩な表現が可能になるのだ。
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