「40年で黒字」が難しい、阪急・大阪空港線 どうすれば実現できるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
新線計画がにぎやかな大阪近辺で、国土交通省が事業採算性の調査結果を発表した。なにわ筋線の開業を踏まえた接続路線については良好。ただし、伊丹空港と阪急宝塚線を結ぶ路線は40年間で黒字転換する見通しが立たないという。国内線航空利用者にはガッカリする結果となった。
投資効果は大きいけれど……
鉄道建設にあたって、もう1つ「費用便益比」という数字がある。便益とは鉄道路線によって発生する利益の総計だ。鉄道事業者が事業収入や、沿線の地価の変化、利用者の時間短縮効果や所得向上、鉄道路線によって発生するモノやサービスの売り上げなど、おカネとして予測計算できる要素のほか、大気汚染や騒音の減少も価値として算入される。
事業期間によって当然ながら数値は変わり、総便益には経済成長率などが、総費用には金利の増減が加味される。ただし、鉄道路線の便益比を計算するにあたり、その路線の鉄道事業者が得る利益だけではなく、全国の鉄道事業者が得る便益も計算される。鉄道ネットワーク全体の効果を含めるためだ。鉄道路線から乗り継ぐ他の交通機関、競合して撤退する交通機関、他の交通機関から鉄道路線を選択する利用者の利益なども全て広範囲に算定される。
総費用、総便益は、一定の調査期間を定めて計算される。長期間の事業は初期費用がかかるため、30年、50年といった長期間や、採算が取れるまでの期間で計算される事例が多い。費用便益比は、こうして算出した総便益を総費用で割った数値である。つまり、費用便益比が1.0を超えれば便益が費用を上回り、社会的に「事業を実施する価値がある」と判断される。
複数の事業があって、予算が限られている場合は、便益比の高い順番で着手される。あるいは、1つの事業で複数の選択案がある場合の比較にも使う。北陸新幹線敦賀〜大阪間のルート選択の資料として使われた事例が記憶に新しい。
国交省の調査結果で、「大阪空港線」の便益比は1.4であった。1.0を超えるという基準はクリアされた。1.4という数字は大きいか小さいかと言えば、大きい方だ。ちなみに北海道新幹線の新函館北斗〜札幌間は1.1だった。北陸新幹線の金沢〜敦賀間は1.0。九州新幹線西九州ルートの武雄温泉〜長崎間は1.1だ。どれも建設期間+開業から50年という期間で算出されている。「大阪空港線」は整備新幹線より投資効果が高いプロジェクトと言える。
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