伊東温泉の現状から地方の観光地の縮図が見えてきた:わびしく見える温泉街の実情は?(3/3 ページ)
「伊東に行くならハトヤ! 電話はヨイフロ」というテレビCMをご存じの方も多いだろう。かつて伊東は温泉街として全国にその名を轟かせた。しかし最近、伊東を訪れた人々は皆、街に活気がない、寂れているという印象を持つ。その現状を探ってみたら日本の観光産業の縮図が見えてきた。
ひときわ目立つ伊東の人口減
筆者が気になるのは住民の減少だ。市街地の活気は観光客だけでなく、住民の影響もあるだろう。伊東市の人口は、2010年は約7万1000人だが、15年には約6万8000人となり、4%減っている。
伊東商工会議所の資料によれば、人口見通しは2010年を100として、20年には8.7%、30年には20.5%、40年には32.5%減となる。ちなみに40年の減少予測は、東京都は6.5%、神奈川県7.8%、静岡県(伊東、伊豆除く)17.3%、伊豆地域(伊東市除く)29.5%となっており、伊豆地域では特に伊東の人口減が予測されている(国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口」12・13年推計)。要するに都市部に比べ、地方の観光地などの人口減が著しいという予測だ。
伊東で生まれ育った子どもたちは、高校を卒業すると就職や大学進学で外に出て、戻らない傾向が強いという。現在の人手不足は深刻だ。伊東商工会議所によると、伊東市の有効求人倍率は1.5倍で、市内事業者の4割弱が経営課題として人手不足を挙げている。
宿泊業においても料理人や従業員確保が難しいという。これは将来の発展を考えたら大問題だろう。観光地としての魅力だけでなく、住民にとっても魅力ある街づくりが最大の課題と感じる。
これは日本の多くの温泉地の課題でもあるだろう。インバウンドで好調な観光産業を支える住民がいなくては立ち行かない。
市内の中心地は寂れた印象を持つが、このように観光資源に恵まれた伊東温泉には、まだ多くの観光客がやって来ている。夏は花火大会が15回もある。市内の宿泊施設は旅行サイトの口コミで評価が高いところが多い。伊東が真の意味で活気付くためには、過去のノスタルジーにとらわれるのではなく、住民を中心とした、街そのものを盛り上げていく機運作りが必要なのかもしれない。
著者プロフィール
細川幸一(ほそかわ こういち)
日本女子大学教授
消費者政策、公共交通政策、企業倫理等を研究。独立行政法人国民生活センター調査室長補佐、米国ワイオミング州立大学ロースクール客員研究員等を経て現職。一橋大学法学博士。内閣府消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。立教大学、お茶の水女子大学で兼任講師。著書に『大学生が知っておきたい生活のなかの法律』(慶應義塾大学出版会)がある。
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