仕入れ目的でもカネのためでもない 東京の居酒屋が漁業に参入した切実な現状:三重・尾鷲で定置網漁(2/5 ページ)
東京で居酒屋チェーンを営む企業が三重県尾鷲市で漁業を始めた。その理由を探っていくと、日本の漁業が抱えるさまざまな問題が浮き彫りになってきた。現場を取材した。
なぜこんなことが起こるのか、五月女氏は懇意にしている問屋とも話し合った。そこで見えてきたのが、生産現場の疲弊と流通の限界だ。仕入れ額が上がっているのに、中間業者はもちろん、産地にもそれは還元されていない。結果として、農業、漁業、畜産業など一次産業の従事者は稼げないということで減少を始めている。「簡単に好きな食材を注文できる状態はいつか限界がくる」。五月女氏はそう感じた。
「チェーンの居酒屋のメニューを見てみてください。どこの店に行っても〆鯖、ホッケの干物、シシャモが並んでいます。これは安定して安く仕入れられるから。逆に消えていっているメニューもあります。例えば、定番だったエイヒレは仕入れ価格が高騰しているので、メニューから外した店も多い。いまはメニューの画一化の段階ですが、すでに手に入らない食材も登場しています」
そうした異変に気付き始めたころ、五月女氏は有志を募って実験的に山梨県に畑を借り、店舗で出すための野菜を育てる農業プロジェクトを行なっていた。このプロジェクトでは安定的な量の野菜を収穫できるまでには至らなかったのだが(別途農家から直接仕入れるルートを構築している)、そのプロジェクトに協力してくれていたメンバーから驚くようなことを聞かされた。それが日本の漁業の危機的な状況だ。
メンバーの知人が山梨県から三重県熊野市に移住して漁師を始めた。そこで日本の漁業の現実を知ったというのだ。とにかく見に来てくれと言われた五月女氏はすぐに三重県に向かった。そこで目の当たりにしたのが、高齢化で衰退していく日本の漁村の姿だった。それは居酒屋の食品の仕入れがどんどん悪くなっていく現実と繋がった。
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