仕入れ目的でもカネのためでもない 東京の居酒屋が漁業に参入した切実な現状:三重・尾鷲で定置網漁(3/5 ページ)
東京で居酒屋チェーンを営む企業が三重県尾鷲市で漁業を始めた。その理由を探っていくと、日本の漁業が抱えるさまざまな問題が浮き彫りになってきた。現場を取材した。
第一次産業と地方にお金を落とす仕組みを
海に囲まれ、海産資源に恵まれた日本だが、実は漁業は世界的に見てうまくいっていない。漁獲高は右肩下がりで、水産庁によると漁業・養殖業生産量は1984年の1282万トンをピークに、2016年は436万トンと約3分の1になっている。そして、より大きな問題が、漁業就業人口の減少と高齢化だ。65歳以上が占める割合は4割に迫っており、各地で後継者問題が発生している。
三重県の漁場を訪れた五月女氏が見た状況も同じだった。漁業従事者は高齢者がほとんどで、若者は数えるほど。高齢になった漁業関係者の息子たちも後を継ぐことはなく、都市に働きに出ている。そして、漁獲量は年々低下していた。三重県の漁業生産額は1984年の1248億円をピークに右肩下がりを始め、2012年には490億円と、4割を切るまでに下落しているのだ。漁業が、そして漁村が衰退するのは当然といえた。
このままでは、安全で美味しい食べ物を提供することはできなくなる。何かできることはないかと考えた。そこで浮上したのが、無謀かもしれない漁業への参入だ。
「以前から会社を6次産業化したいと考えていました。これは元々農家が多角展開する経営手法ですが、我々飲食店が産業の川上に向かっていき、一次産業に参画してもいい。というか、していかないといけないんです」
農業は自社産業化するまでには至っていなかったが、それより先に行うべきは漁業だと五月女氏は決断した。そこからの行動は早い。漁業をするためには何が必要なのか。三重の漁港で働いていた知人とともに調査を始める。必要なのは「船と網、そして漁業権」だ。しかしこれが難しかった。
船や網は中古がある。新品の漁船を買えば数千万円するが、中古なら補修費を合わせても数百万円で買える。網も2、3人で上げるような小さな網ならそれほど高くはない。そう考えていた。問題はそこではなかった。漁業権だ。
そもそも漁業権は各都道府県が管理し、免許を発行する仕組み。しかし、漁業権には優先順位があり、都道府県から直接企業に免許が下ることは希で、基本的にはその地域の漁協が共同漁業権を管理する形となる。漁業従事者はその漁協の会員になることで、漁場を割り当てられ、漁業ができるようになるのだ。しかし、全国の漁協を見ても、企業の新規参入を認めている状況は決して多くない。
五月女氏のゲイトもここで躓いた。漁協の企業会員になかなかなれないのだ。それぞれの漁場を管理する漁協には、漁場を守るという使命がある。突然東京から使命感を持った企業が現れたからといって簡単に受け入れられないのが普通なのだ。
これは日本の漁業が生活と一体化していることにも理由がある。漁業を営んでいる人の多くはその漁村に住み、魚を市場に卸している。そこによそから企業が入って来て、生活資源である魚を全部持っていくようなやり方をされることへの抵抗感は決して否定できない。
また、企業は営利目的で活動するため、一定以上の利益が出ない継続は難しい。漁協側が環境を整えて受け入れても、短期間で撤退されてしまうリスクもある。それらを考えると、漁協側がさまざまな条件を付けるのは当然だと言える。地元には地元のルールがあるのだ。
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