患者1000人以上がかかりつけ レジェンド薬剤師が貫く仕事の作法:薬だけでなく患者個人に向き合う(2/3 ページ)
患者の薬全般の指導を請け負う「かかりつけ薬剤師」の中でも1000人以上を担当する“レジェンド”な女性が日本調剤にいる。秘訣は患者に寄り添い心を開かせる接客にあった。
患者の気持ちを否定しない
紀平さんも「薬だけでなく患者の健康の全責任を負う」との意気込みで職務に向き合う。特に彼女がモットーにしているのが「相手(患者)の気持ちになる。決して否定しないこと」だという。
紀平さんの勤める薬局は住宅街の中にある。訪れる人のうち多くは疾病を抱える高齢者や、病気になりやすい小さな子供を抱えた母親だ。特に高齢者は病気や加齢によるつらさで我慢しづらくなっていることもあり、ちょっとしたことで怒鳴ったりクレームを言うことも少なくない。
例えば薬剤師は販売する薬を間違えないよう慎重に処方するため、どうしても患者を待たせることになる。事情を理解できず「何で待たせるんだ」と怒り出す高齢男性もいるという。
ただ、紀平さんからするとそういった患者は、自分の気持ちを周囲が分かってくれないこと自体に普段からイライラしているように見える。「そばに寄り添って共感し、気持ちをくむことで頑固な患者も(態度が)柔らかくなる」。医師の前ではなかなか言いたいことを言えない高齢患者も、「先生は話聞いてくれないのよ」と紀平さんの前では愚痴って心を開くという。
現役時代は大学教員など社会的地位の高かった患者が来て、「オペレーションが悪い」などとクレームを言ってくることもある。ただ、そういった人ほど丁寧に対応すれば逆に自分のファンになってくれるという。
精神科や心療内科に通う患者の中には、うつ病など自分の病気を知られたくない人も少なくない。一方でこういった患者が飲む薬の中には、別の病気のための薬と併用すると副作用を起こすものもあり、薬剤師は全ての病状を把握する必要がある。紀平さんはこうした患者とも根気よく向き合う。やがて「あなただけに言いますが、私はこういう(メンタルの)病気です」と打ち明けてくれるという。
患者への繊細な注意力も紀平さんの武器だ。かかりつけ薬剤師は普段、薬局のカウンター越しで患者に接する。数分程度のやりとりで、しかも数カ月に1度しか来ない人もいる。短い対面時間の中で紀平さんは会話や患者の顔色などに気を配り、さりげなくアドバイスや投薬に生かす。
例えば「体がだるい」としきりに訴える患者がいれば、病院からもらった血液検査の結果と照らし合わせる。結果、薬の副作用が発生している可能性があると判断し、担当医師に薬の量を少なくするよう提案したりする。
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