障害者雇用水増しに「怒りより痛み感じて」 車いすの歌姫の叫び:障害者はただの「数字」なのか(3/5 ページ)
障害者雇用水増し問題に障害者タレントが本音を語った。自分たちが企業から受けた差別を踏まえ「やっぱりそうなのか」。「私たちの痛みを自分のことと感じて」と話す。
歌にモデルもこなすキャリアウーマン
もう1人のタレント、小澤綾子さん(35)は1万5000人に1人がかかるとされ徐々に筋力が低下する難病、筋ジストロフィーのため手足に障害がある。新卒で入った外資系大手企業で人事を担当する、車いすのキャリアウーマンだ。一方で5年ほど前からシンガーソングライターやモデル、大企業向けのダイバーシティ(多様性)の研修の講師としても活躍するマルチタレントでもある。
小澤さんが歌うのは同じ病気を持つ知人が作った曲や、自分の鼻歌から作ったというオリジナル曲だ。車いすの女性2人とユニットを組んで活動している。デンマークでは初の海外公演も果たした。最近では大阪でバリアフリーをテーマにしたファッションショーにも出演。活動領域は止まるところを知らない。
勤務先でもチームリーダーを任され、仕事量も昇進スピードも健常者の同僚たちと何も変わらないという小澤さん。しかし、学生時代は孤独を感じて悩むことが多かった。10歳の時に筋ジスの症状が足に出始めると、「変な歩き方が移るから来るな」と友達からいじめられた。当時はまれな難病だったために病院に行っても正しく診断されず、医師からは「個人差でしょう」とまで言われた。
大学時代に病名が判明して「あと10年したら車いす、その後は寝たきり確定」と医師に告げられた。「自分の人生は何なのか。できることが無くなっていく私に生きる意味はあるのか」とまで思い詰めた。
特に理不尽な扱いを受けたのは大学3年時の就職活動だった。大学では成績優秀で面接での受け答えにも自信があった。しかし受けた企業の選考にはなかなか通らない。面接では「小澤さんの病気の人はうちで採ったことがないから難しい」と断られたり、「できないことをすべて挙げてください」「何歳まで働けますか」と聞かれたりし、病気の説明ばかりさせられた。
最終面接まで進み、内定の手応えを感じていた会社からも「小澤さんの病気では(採用が)難しいって上が言ってた。ごめんね」と採用担当者に電話で断られた。「ショックだった。みんな私の病気のことしか見ていない」(小澤さん)。
その後、ゼミの教官に障害者手帳を取得するよう言われ、気が進まなかったが取ったところ内定が出るようになった。企業が法定雇用率を達成したいがために、手帳を持っている障害者を取ろうとしていたのだろうか。
ある日、就職説明会で最初は受ける気のなかった今の会社のブースにふらっと入ったところ「うちはいい意味でも悪い意味でも障害者を特別扱いしない」と言われた。「できないことはあまり聞かれず、私のできること、得意なことを聞いてくれた。それがうれしかった」(小澤さん)。他の会社の内定を蹴って入社を決めた。
関連記事
- 「障害者雇用の水増し」で露呈する“法定雇用率制度の限界”
複数の中央省庁が、障害者の雇用率を長年水増ししてきた疑いが浮上している。障害者雇用の現場で、一体何が起きているのか。自身も脳性麻痺(まひ)の子を持ち、障害者雇用に詳しい慶應義塾大学の中島隆信教授に、国と地方自治体による水増しの背景と、日本の障害者雇用の問題点を聞いた。 - 松屋フーズ、ヤマト、KDDI、第一生命 先進企業に探る「障がい者雇用」の本質
2018年4月から障がい者の法定雇用率が引き上げられた。ヤマト運輸や松屋フーズなど「先進的」と呼ばれる企業は、障がい者の能力をいかに引き出しているのか。障がい者雇用の本質を探る。 - 「ローソン外国人店員研修」で500人育てた「カリスマママ教官」の愛のムチ
ローソンの外国人向け店員研修に記者が参加。指導役の女性が参加者の国の文化に配慮しつつ、厳しく丁寧に複雑なコンビニ業務をレクチャーした。 - 日本の料理学校で外国人が「和食」より「洋菓子」を学ぶ深い訳
料理の名門「辻調」の製菓学校で洋菓子作りを学びに留学する外国人が増えている。日本の高い技術やビジネスモデルの習得が目的だが、法規制のため卒業後日本の洋菓子店で実務経験を積めないのが課題。 - 大災害時に訪日客をどう守るか 西日本豪雨・大阪府北部地震で考える
豪雨や地震など大災害時、訪日客をどう守るのかインバウンド情報の専門家に聞いた。言葉の壁が浮上するほか、保険未加入の人の多さやデマの危険性も問題に。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.