大災害時に訪日客をどう守るか 西日本豪雨・大阪府北部地震で考える:避難時に言葉の壁、悪質なデマも(1/2 ページ)
豪雨や地震など大災害時、訪日客をどう守るのかインバウンド情報の専門家に聞いた。言葉の壁が浮上するほか、保険未加入の人の多さやデマの危険性も問題に。
活況が続くインバウンド市場。訪日客数は過去最高を更新し続け、2018年には3000万人を突破すると予想されている。一方、この業界では以前から懸念されている問題がある。大地震や豪雨などの災害発生時、膨大な数の外国人をどう守るかだ。
日本語にも地理にも明るくない訪日客は災害時、日本人以上に混乱する可能性が高い。調査会社のサーベイリサーチセンター(東京都荒川区)が、大阪府北部地震が発生した6月18日に近畿圏にいた訪日外国人客約150人に行ったアンケート調査では23.7%が「言葉が分からずどこに行けばいいか分からなかった」と回答した。
外国人を標的にしたデマも問題に。7月に西日本を襲った豪雨では、「被災地に外国人とみられる泥棒が入った」などといった悪質なうわさがSNS上で流れた。災害に加えて言葉の壁やデマにも苦しめられる訪日客をどうやって守るのか。
今回、この問題について話を聞いたのは海外旅行のガイド本「地球の歩き方」を出版しているダイヤモンド・ビッグ(東京都中央区)の弓削貴久さん。同社の訪日客向けフリーマガジン「GOOD LUCK TRIP」を運営しているほか、訪日客向けメディアの業界団体「日本インバウンド・メディア・コンソーシアム」の理事長も務める。インバウンドの情報発信に長年取り組んできた弓削さんに、被災時の訪日客の守り方を語ってもらった。
「日本語のアナウンスやテロップだけ」
――大阪府北部地震では駅や空港で立ち往生したり困惑する訪日客の姿が報道されました。サーベイリサーチセンターの調査でも、訪日客の23%が「交通機関の情報などが分からなかった」と回答しています
弓削: 今回の大阪の地震では、駅で既に新幹線が運転を再開しているのに気付かない外国人が長時間待ちぼうけになったそうです。駅員がまずボードに英語で書かれた遅延のお知らせを貼ったようですが、その後の復旧のアナウンスが日本語の音声だけだったのが良くなかったようです。
駅の近くには観光案内所があって外国語の分かるスタッフがいたようですが、そこに訪日客は行かなかった。駅員や近くの日本人が「自分は外国語が分からないから、あそこに行って聞いて」と言えれば良かったのですが……。
大地震の直後はWi-Fiがつながらなくなったり、電話も使えなくなることがある。日本語を使えない訪日客はどこに行けばいいか分からず、誰にも連絡が取れないため駅に殺到する可能性が高いと思います。
――同調査では、訪日客の約半数が「日本のテレビ・ラジオ」を使って避難や旅行日程の情報を得たと回答しています。一方で21.1%が「テレビなどでの地震の放送が理解できなかった」とも答えています
弓削: 大阪府北部地震の速報を報じたテレビのテロップも基本的に日本語だけでした。最低でも英語は加えるべきでしょう。テレビの災害の一斉放送も多言語でやれると良い。多言語で災害情報が表示されるサイネージも、訪日客向けに重要になってくる。
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