大災害時に訪日客をどう守るか 西日本豪雨・大阪府北部地震で考える:避難時に言葉の壁、悪質なデマも(2/2 ページ)
豪雨や地震など大災害時、訪日客をどう守るのかインバウンド情報の専門家に聞いた。言葉の壁が浮上するほか、保険未加入の人の多さやデマの危険性も問題に。
訪日客の27%が保険に入らず入国
――言語の壁は災害時により深刻になりそうです
弓削:被災時、ツアーの団体客なら添乗員がサポートしますが個人旅行客が民泊を利用して旅行している場合、周囲は日本語しか分からない日本人だけ。それはつらい。
そういった訪日客には事前の備えが必要です。例えば、外国人旅行者向けに観光庁の監修で作られた情報通知アプリ「Safety tips」。多言語対応で、地震や津波の速報、噴火など(災害関係で)必要そうな情報を網羅している。周囲の日本人と情報のやりとりをするための「コミュニケーションカード」機能もあります。しかし、まだまだ認知されていないので(訪日客に)知ってもらうことが必要です。
また、旅行保険に入らずに入国する訪日客は多い。観光庁が17年12月〜18年1月に空港で訪日客に行った調査では、27%が医療費をカバーする旅行保険に入っていないことが判明しています。日本は安全で大丈夫と思う人が多いからかもしれませんが、日本と訪日客の住む国の双方で加入率を上げる対策をとるべきです。
――今回の地震・豪雨では外国人を標的にした悪質なデマがSNS上で流れました。豪雨の被害の大きかった地域の名前を挙げ、「泥棒に入っている。日本人ではないみたい」などと書き込まれた内容がTwitter上で物議をかもしました
弓削: 1906年に米サンフランシスコを襲った大地震の際には、井戸に日本人が毒を入れたり、家に入って泥棒をしたりしたというデマが流れたそうです。日本の関東大震災の時(デマのせいで朝鮮人が日本人に虐殺された事件)と同じです。大災害が起きたとき、他国の人に対して疑心暗鬼になることは昔からあるのです。
デマは怖く悩ましい問題です。悪ふざけ感覚で流す人もいる。単に外国人がコンビニで何か買って出てきただけなのに、目の錯覚で強盗に見えてしまうこともあり得る。心無い人は日本人にも外国人にもいます。デマが流れてしまうことはある意味、人間の真理なのかもしれない。しかし、SNSで誰が発信したかも分からない情報はやはり安易に信じてはいけないのです。
これまでのインバウンドの取り組みは誘客促進ばかりでした。災害時の訪日客対策についても必ず行政などがすべきです。地震や豪雨は今後も必ず起きる。「日本は100%安全」とは(訪日客には)言えない。一方で災害を警戒して訪日客が減れば、困るのは私たち日本人なのです。
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