東京モーターショー再生への提案:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
東京モーターショーの地盤沈下はもはや誰の目にも明らかだ。来場者や出展者の数はどんどん減っている。一体どうすればいいのか?
日本のロールモデルとなるのは
この中で日本にとってロールモデルになるのはジュネーブだ。欧州の自動車ショーはかつて、フランクフルト、パリ・サロンのほかにバーミンガム(英国)、ボローニャ(イタリア)などがしのぎを削っていたが、ジュネーブはそれらに戦略的に臨んだ。
まずは自国が自動車生産国でないことを逆手にとって、他の欧州ショーのように自国の自動車メーカーを優先しない平等なブース割りを打ち出した。併せて、来場者のホスピタリティを徹底的に見直し、休憩所の充実や託児所の開設、プレスルームの拡充など、来る人に寄り添った運営を約束し、世界の自動車メーカーを誘致することに成功した。
そういう努力をしなかった英国は、自国の自動車産業の衰退とともに凋落し、イタリアも似た結果になった。強力な自動車産業を持つドイツだけが生き残ったが、それと互角以上の奮闘をジュネーブは続けている。
TMSに行ったことがある人なら分かるだろうが、一般公開日には座る場所すらままならない。このあたりは自工会のお役所的体質が透けて見えている部分で、国内自動車メーカーの方ばかり向いて仕事をしてきた結果、こういう事態を生んでいる。
来場者や出展社を増やしたいなら、彼らが快適になるようにリソースを振り絞るべきで、今のような食事やお茶の設備も内容もプアなままで、来てくれと言うのは虫が良すぎる。有料でも良いので、ゆっくりくつろげるラウンジを設けて来場者満足度の向上を図るべきである。そういう諸々にもっと意識を向けて、辛い大変な体験ではなく、楽しく快適なショーに仕立て直さなくてはならない。
TMSはジュネーブを範に取りつつ、それを超える情報コンテンツの充実をもっと強く打ち出すべきだ。これまで書いてきたように、日本は世界でも自動車メーカーの数が特異的に多く、彼らの情報発信は日本語という障壁に阻まれて世界に届いていない。まずそれを何とかすべきだ。次に自動車ユーザーのクラブなど、文化的な先進性では米国と互角に戦える要素を持っている。この強みも生かさない手はない。
情報と文化の発信、来場者や招聘ジャーナリストにとって快適なショーへの転換それこそがTMSが目指す新しい姿なのではないか?
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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