東京モーターショー再生への提案:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
東京モーターショーの地盤沈下はもはや誰の目にも明らかだ。来場者や出展者の数はどんどん減っている。一体どうすればいいのか?
PRの基本への回帰
そもそもモーターショーとはPRの場である。PRは宣伝と違う。語源は「Public Relation」であり、正しく翻訳すれば広報・広聴となる。つまり企業の活動や製品について広く正しく知らせ、それに関する意見を広く聴くことこそがPRである。自動車メーカー各社はそこでどういうメッセージを発信すべきかを熟慮し、また外部からの意見をしっかり受け止める丁寧なPRをすべきである。多くのエンジニアの手を煩わせたとしても、それによって得られる経験や情報は決して少なくない。開発にも必ず役立つだろう。
当然それをアジアの人たちだけの特権にする必要はない。日本のユーザーたちが、自分の乗っているクルマのエンジニアたちと直接コニュニケートできる場が設けられたらどれだけ心踊る体験になるだろうか?
もちろん全員と1対1で話をすることは不可能だ。ユーザー代表とのパネルディスカッションやトークセッションなどによって、企業の活動を正しく、ユーザーに直接説明する。メーカーが一部のクルマで行っているファンミーティングをモーターショーに取り込むべきだ。場合によってはそれらファンの主催するブースがあったって良いではないか。メーカーがコストを持っても良い。日本のユーザーがアジアのユーザーやジャーナリストと触れ合うことで広がる新しい世界もきっとある。このあたりはクールジャパンの底上げにも寄与するはずである。
そういう戦略を丸ごと中国に乗っ取られたらどうするか? 幸いなことに中国は未だに巨大なドメスティックマーケットであり、まだまだ国内向けにクルマを生産するだけで精一杯。中国の外に輸出しているクルマは大した数ではない。生産者としての各国メーカーは、巨大マーケットとしての中国に大きな興味があるが、世界のユーザーはまだ中国メーカーの名前すらよく知らない。やがて国内マーケットが飽和したとき、彼らは世界に目を向けるだろうがそれまでにはしばしの間がある。その間にTMSをアジアの自動車ショーとして再定義できれば、勝算は十分にある。
かつて世界5大モーターショーと呼ばれたショーは、TMS、フランクフルト(ドイツ)、デトロイト(北米)、ジュネーブ(スイス)、パリサロン(フランス)の5つだった。いまや日本がここから転げ落ちて、代わりに上海・北京(中国両都市で交互に隔年開催)が入ったと考えるべきだろう。
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