「社員を管理しない、評価しない」 個人と会社の幸せを追求した社長が心に決めたこと:これも新しい働き方(1/5 ページ)
「ワーク・ライフ・バランス」ではなく「ワーク・アズ・ライフ」。こうした言葉を語る人たちが増えている。TAMという会社は、社員のワーク・アズ・ライフを「仕組みで」可能にしている。社長にその本質を聞いた。
働き方改革を発端に、ワーク・ライフ・バランスを求める声がますます高まっています。しかし、第一線で活躍するビジネスパーソンほど、文字通り仕事と人生を分ける、このワーク・ライフ・バランスというコンセプトに違和感を覚えているようです。
そんな彼らが共感を示す言葉が「ワーク・アズ・ライフ」。仕事と人生との間に境界線を引かず、自然体で働く、あるいは好きなことがいつの間にか仕事になっている状態を指します。
企業のデジタルマーケティングを支援するプロダクション・エージェンシー「TAM」は、社員のワーク・アズ・ライフを「仕組みで」可能にしているユニークな会社です。
TAMでは毎年、内省した上で自分の上司と対話するキャリアミーティングの場が設けられます。自分の強み、弱み、置かれた環境などを棚卸しし、社員のワークだけでなく、それを含むライフについて、時間をかけて共に考える。そうして社員は自己実現に向けて努力していくのです。しかし、中には何年かのミーティングを経て、転職や独立を決断する人も……。
普通に考えれば、手塩にかけて育てた社員が離れてしまうのは、組織にとって痛手のはず。にもかかわらず、会社自らそれを促すのはなぜなのでしょうか。さらに、TAMには評価制度さえなく、給料を決めるのは社員自身だといいます。
そんな“常識はずれ”の会社運営を26年にわたって続けてきた、TAM代表の爲廣(ためひろ)慎二さんに、その狙いを伺いました。
人が人を正当に評価することなんてできない
――TAMには評価制度がないとお聞きしたのですが。
導入しようとしたこともあったんですけど、どうも肌に合わなくて。というのも、人が人を評価するというのが正当に行われるようには思えないんですよね。
僕も若いころは会社勤めをしていましたが、ことあるごとに「そんなことをやっていても評価されないぞ」と言われました。ほとんど話したこともない課長に評価されて、「あんたに何が分かるねん!」って思っていました。
評価制度があると、どうしても「良い評価を得る」ことが働くモチベーションになってしまうじゃないですか。でも、僕からすればそれは著しく不自然なこと。「仕事って好きだからやるんじゃないの?」「点を取るために仕事をするとか、そんなアホらしいことはないんじゃないの?」って思うんです。
――その価値観はどこで培ったものなんですか?
学生時代にリクルートでアルバイトをしていた時のインパクトが強かったんだと思います。当時はまだ創業者の江副(浩正)さんが最前線で旗を振っていて、アルバイトの自分も社員と一緒になって毎日営業に出ていました。そうして「自ら機会を創れ」という理念を肌で体感させてもらった。それがすごく楽しく、刺激的で。
だから、腹の底にはリクルートのDNAがあるんだと思いますね。評価を得て、出世して、昇給して、それで幸せになるとか、ナンセンスやと思えてしょうがない。仕事なんて、自分のためにやったらええやん、と。
――じゃあ最近よく聞くワーク・ライフ・バランスなんて言葉は……。
嫌いですね。バランスなんかあるかい、と。だって、好きなことだったら昼夜問わず没頭するのが普通じゃないですか。もちろん健康や体調管理をしっかりすることは大前提ですが、それがやりたいことなのであれば、誰の目も気にすることなく好きなだけやればいいと思うんです。
だから経営者としては、メンバーがやりたいことを叶えるために出せるお金は出したいし、借金してでもやらせてあげたいと思いますね。もちろんそこには、そうしたほうが事業が伸びて会社としても成長するとか、そういう勝算があるからということもありますけど。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 天才プログラマー・佐藤裕介は限界を感じていた――知られざる過去、そこで得たメルカリ対抗策
2018年2月に誕生したヘイ株式会社。代表取締役にはプログラマーの佐藤裕介さんが就任した。佐藤さんはGoogle出身で、フリークアウト、イグニスの2社を上場に導いた人物。そんな彼がheyを設立したのは、順風満帆に見えるキャリアの陰で抱えていた、自分のある「限界」を突破するためだった。 - 就活をやめてエストニアへ そこで私が確信した日本と世界のキャリア観の決定的な違い
普通なら就職活動真っ只中の期間である大学3年生の1月から大学4年生の6月までの約半年、就活を中断してエストニアに留学中の筑波大学4年生、齋藤侑里子さん。そんな彼女が現地で感じた、日本の就活への違和感、グローバルスタンダードなキャリアの築き方とは――。 - 65歳でネスレに中途入社したベテラン営業マンが輝いている理由
大手メーカーで営業マンとして20年以上働き、50代で起業経験もある石川さんは、65歳でネスレ日本に入社した。上司や同僚にも仕事ぶりが評判だというが、そのわけとは――。 - YouTuber教育プログラムで子どもたちに教えている、動画の撮り方より大切なこと
子どもたちのやりたいことを叶えたいという思いから「YouTuber Academy」の運営を始めたFULMA代表の齊藤涼太郎さん。彼が考える、子どもたちに身に付けてほしい、変化の激しい時代を生き抜くのに必要な力とは何だろうか? - ITエンジニアからの転身 小さな漁港に大きな変化を生んだ「漁業女子」
三重県尾鷲市の須賀利で漁業を始めた、東京の居酒屋経営会社がある。そのスタッフとして漁業事業を引っ張るのが田中優未さんだ。元々はITエンジニアだった田中さんはなぜ今この場所で漁業にかかわっているのだろうか……?