“トランプ暴露本”で注目のスター記者から学ぶ「人心掌握術」:世界を読み解くニュース・サロン(6/6 ページ)
新たなトランプ暴露本が発売され、注目されている。著者のジャーナリスト、ボブ・ウッドワードに対して、政権幹部らはなぜ口を開いてしまうのか。知られていない情報を得るための“仕事術”とは……
数十ページの「企画書」を提出
ウッドワード流に言えば、交渉の場では、沈黙と忍耐が必要になる。私たちは沈黙を埋めようとしがちだが、あえて、重要な相手との重要な会話の時ほど、相手に話をさせるためにポーカーフェースで沈黙してみるのも効果があるかもしれない。事実、そうしてウッドワードは、元FBI副長官やCIA幹部、政権・軍幹部などから深い情報を得ることに成功しているのである。
ただウッドワードの仕事術には意外な話もある。それは大統領のような容易に家などに近づけない人たちに接触したいが、コネもない場合、長い企画書を用意して提出するのだという。企画書には、取材の目的やゴールなどの詳細がまとめられており、数十ページにもなるらしい。ジョージ・W・ブッシュ大統領へ取材申請する際には、22ページに及ぶ企画書を提出したという。あまり長い企画書は読まれないというのが日本ではビジネスのセオリーのように言われるが、そうでもないということなのか。もしかしたら、ダメだと思い込んでいるだけで、実は長い企画書は効果があるということなのかもしれない。
こうしたウッドワード流のやり方は、もちろん日米の文化的な差もあるため、有効かどうかは何とも言えないところもある。ただこうして世界最高峰のジャーナリストが何十年にもわたって、みんなが得られない情報を得ているという事実は、ビジネスパーソンにも参考になる部分があるのではないかと思う。
筆者はウッドワードと同じように人から情報をもらう仕事なので、早速「沈黙が真実を吸い出す」を実践してみようと思っている。「長い企画書」も機会があったら試してみたい。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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