リクルート、AIにエントリーシートを採点させる真の狙い:HR Techは人事にとって魔法か、それとも脅威か(1/3 ページ)
リクルートがエントリーシートを熟練面接官並みの精度で自動採点するAIを開発、自社の新卒採用で成果を上げている。将来は他社にサービスとして売り込む方針。
〜HR Techは人事の現場で本当に「使える」のか〜:
ここ数年、人材の採用や管理、評価、育成などにITを活用したHR Techが増えている。人事が手で入力したり、膨大なデータを直に見て判断したような作業をプログラムが代行。AI(人工知能)が人材の「評価」まで行うサービスも登場している。
ただ、人事とはもともと「人対人」のアナログな仕事だったはず。デジタルを駆使するHR Techが果たしてどこまで役に立つのか。あるいは使えすぎて人間の仕事を奪わないか。最前線を追った。
リクルートグループが自社の人事業務にAIを始めとしたHR Techの導入を加速させている。人材系企業が自社でもITを使った人事サービスを使うことは珍しくない。しかし、同グループはこのプロジェクトのために半数を生粋のIT系人材で占める“専門部隊”を設立した。通常なら外部のサービスを導入するところを自社で内製化しているのだ。
目玉となるのが、これまで人力で行っていた新卒採用時のエントリーシート(ES)の選考作業を自動化するプロジェクトだ。熟練面接官の「目利き力」をAIに宿らせるという。しかし、リクルートグループは他業種の企業に比べても数多くの採用のプロを抱える人材大手。自社で充足していたはずの人事業務の自動化になぜこだわるのか、そしてこの「採用AI」の実態に迫った。
人事部署なのに半数がIT系人材
リクルートホールディングス(HD)傘下でグループ内の事業会社を束ねるリクルートが本プロジェクトを開始したのは約3年半前。人事の部局内に「人事戦略部」を設立し、社内外からエンジニアやデータサイエンティストといったIT系の若い人材を集めた。今では約20人の部員のうち半数をこうした非人事畑が占める。
人事戦略部の目的は採用から社員の配置、育成、評価などあらゆる人事業務をAIやビッグデータを使ったシステムに置き換えていくことだ。部長の中村駿介さん(35)は「人事は社員の生産性の向上というコアの業務に至る前に集計などの単純作業にとらわれて疲弊している。経験と勘の集積で正しいかどうかが決められ、何十年も業務が進化していない可能性もある」と指摘する。業務の効率化とパフォーマンス向上を狙った。
既に同部はアルゴリズムを使って社員と相性が良さそうな上司とをマッチングさせる「配属」や、退職の危険性のある社員を予測し先回りしてフォローする「組織開発」など、新システムを形にしつつある。中でも新卒採用で実績を上げているのが、学生のESを熟練の面接官並みに判断できるというAIだ。
開発を主導したのは16年に新卒で入社した興梠智紀さん(27)。工学部出身でエンジニアとしてベンチャーでインターンシップの経験もある。リクルートのIT職種採用の新卒としては初の人事配属でもある。
AI導入の目的は膨大な時間や手間のカット、そして属人性を排したチェック体制の確立だ。新卒採用で学生からリクルートグループに送られるESは数万通に上る。まず、「面接に通すべきかどうか」をESの内容から判断できるAIを作ることにした。
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