リクルート、AIにエントリーシートを採点させる真の狙い:HR Techは人事にとって魔法か、それとも脅威か(2/3 ページ)
リクルートがエントリーシートを熟練面接官並みの精度で自動採点するAIを開発、自社の新卒採用で成果を上げている。将来は他社にサービスとして売り込む方針。
熟練面接官の判断プロセスを分析
興梠さんらは過去7年間の採用にまつわる人事の資料をデータベース化する作業に取り掛かった。紙やpdfファイルでしか保存されていないデータも手作業で根気強く入力、機械学習の機能を持つソフトウェアに読み込ませた。過去のESの内容と書いた学生が書類通過したかどうかの情報を結び付けることで、どんな内容だと通過させたほうがいいか判断して採点できるAIをまず開発した。
16年にIT系人材の新卒採用で試験導入したところ「このAIの出した(学生を評価する)数字を本当に信じていいのか」と、AIを信用しきれずESを自分の目で確認しようとする採用担当者が続出した。加えてこのAIが判断しているのはあくまで「面接に通していいか」であって、採用の最終目標である「将来活躍しそうな人材」の目利きではないという課題もあった。
単なる省力化にとどまらず、人間の人事も信頼の置けるAIにどうすればたどり着けるか。興梠さんらが新たに取り組んだのが「熟練面接官の判断プロセスの徹底的な理解」だ。過去に面接官が良しあしを判断したESの文章内容を解析して、どんなパターンだと評価が高いのか探し回った。立てた仮説を実際に面接官たちにぶつけ、彼らの目利きの裏にある「暗黙知」を突き止めようとした。
従来、リクルートでは採用担当者がESを採点する際には部活や研究、サークル活動といった学生生活の成果にまつわる12項目を基準にしていた。しかし興梠さんらの調査で浮かび上がったのは、これらの項目のどれかを担当者が重視しているというより、成果の中で「主体的に行動できるか」というポイントに重きを置いて判断している点だ。
そこで新型AIではESの記述から特にこの「主体的な行動」の有無を抽出し、点数化できるアルゴリズムを導入した。さらに人間の人事がAIの判断をより信頼できるよう、ESの評点を出す際には過去にAIでなく人事が採点した別のESの例を添えて「この学生のESと似た傾向があったため近い評価にした」と説明する機能も付けた。AIの判断をブラックボックス化せず、その根拠を補足することで説得力を持たせるためだ。
さらにはAIがESに出した評点に対し、過去のデータからはじき出した「信頼度」も示すようにした。この数値が低い場合はAIの採点の精度が低い可能性があり、採用担当者は実際にESを目で見て確認することができる。「機械と人間のハイブリッド作業なら安心感が出る」(興梠さん)。
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