東急の鉄道分社化で「通勤混雑対策」は進むのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
東急電鉄が鉄道事業を分社化すると発表し、話題になった。この組織改革は「混雑対策への大きな一歩」になるのではないか。対策に迫られている田園都市線渋谷駅の改良につながるかもしれない。なぜなら……
持ち株会社の役割はグループ全体の統治
鉄道事業と他の産業の違いを説明するために、「持ち株会社制度とは何か」をおさらいする。持ち株会社は文字通り、子会社の株式を保有する会社だ。単なる親会社と違い、子会社の全株式を保有する。
持ち株会社と事業会社の関係は、消費者、利用者からは分かりにくい。例えば、キッコーマンブランドのしょうゆ、みりんなどを製造・販売する会社は「キッコーマン株式会社」ではなく、「キッコーマン食品株式会社」だ。キッコーマンはキッコーマン食品の持ち株会社である。ただし、持ち株会社のグループ戦略としてキッコーマンブランドを管理しているため、広報や顧客サポートなどはキッコーマンが行っている。ちなみにケチャップの「デルモンテ」ブランドを展開する日本デルモンテの持ち株会社もキッコーマンだ。
持ち株会社制度を採用する理由は、主に各事業の独立採算と企業統治のためだ。独立採算の制度としては、事業部制、社内カンパニー制もある。ただし、それらの制度では資本まで分割しない。事業部制は地域やサービスごとに事業部を設置し、業績管理や予算策定に必要な権限を与える制度。カンパニー制では、疑似子会社として社内カンパニーを設置し、企業内で競争して利益を追求する。この2つの制度は、リーダーの育成や従業員にコスト意識を徹底させる効果もある。ただし、どちらも同じ会社の中だから、待遇は全社共通の水準になる。
持ち株会社制度は、各事業部門を子会社として独立させる形になる。子会社は事業の特性に応じて独自の人事制度や事業計画を策定し、予算と実績を管理する。従来の親会社・子会社という関係との違いは企業統治だ。親会社は子会社に対し、配当利益を要求する。そのために株主提案も行う。しかし、100%出資ではない場合は、他の株主の提案もあるため、最終的には子会社の経営判断になる。持ち株会社制度では、持ち株会社がグループ全体の経営戦略を策定し、100%株主として子会社の経営に関与していく。そのグループの強みをもって、持ち株会社が株式を公開し、出資を募る。
つまり、分社化といっても「グループ本体から事業を切り離す」ではない。事業会社の機動力を高めて、グループ全体に貢献させるのが目的だ。
鉄道事業は、勤務体系や設備投資、維持費用などが一般的な会社と異なる。そもそも、不動産、流通部門と同じ枠組みで運営しにくい事業だ。鉄道事業専業会社として独自の運営ルールを策定させつつ、持ち株会社はグループ全体の利益になるように意思決定し、実行させる。
東急電鉄の鉄道事業は子会社化されるけれども、東急グループの持ち株会社の経営方針にのっとって事業が行われる。利用者から見れば、これまでと変わらない。
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