東急の鉄道分社化で「通勤混雑対策」は進むのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
東急電鉄が鉄道事業を分社化すると発表し、話題になった。この組織改革は「混雑対策への大きな一歩」になるのではないか。対策に迫られている田園都市線渋谷駅の改良につながるかもしれない。なぜなら……
鉄道の子会社化の経緯はさまざま
持ち株会社の利点は独立採算と企業統治。これは共通しているけれども、鉄道会社が持ち株会社に移行する理由はさまざまだ。
例えば、京阪電鉄は長期的な経営方針の策定に当たり、「グループ事業の自立と事業に見合った経営を実施させる」「持ち株会社がグループ全体を見渡し、グループを横断した戦略と新事業の創出」「そのための不動産など経営資源の流動化」が目的だった。他業種の企業の持ち株会社化に近いタイプだ。
西武HDは、西武グループ創業家の支配力の行き過ぎから有価証券報告書虚偽報告事件を起こした。そこで企業体質の改善を図るために、資本関係を整理しグループを再編した。投資家から支持される企業づくりのための改革だ。
阪急阪神HDの場合、先に阪急電鉄が経営基盤の強化と各事業の競争力を高めるために阪急HDを設立。翌年に阪神電鉄を完全子会社化した。ライバル関係にあった阪急電鉄と阪神電鉄を対等合併させるため、と思いがちだが、実際は違う。阪急が先に経営改革を行い、阪神電鉄が直面していた村上ファンド大量株取得事件のホワイトナイトとして友好的買収を実施した。
東急電鉄はどうか。全ての事業を子会社化するわけではなく、当面は鉄道事業の分社化にとどまる。持ち株会社には事業を行わない純粋持ち株会社と、直轄事業を持つ事業持ち株会社がある。鉄道分野では西武HD、阪急阪神HDが純粋持ち株会社。相模鉄道はバス会社を直轄する事業持ち株会社だったけれども、バス会社を子会社化して純粋持ち株会社となった。東急電鉄の場合、差し当たり鉄道部門だけを子会社化し、他の事業部門は直轄するため、事業持ち株会社である。
鉄道部門だけの分社化が、ネット上の「ざわつき」の元になった。9月13日に『東洋経済オンライン』に掲載された記事では、東急電鉄幹部が鉄道以外の事業分割を否定している。将来的に純粋持ち株会社に移行するかもしれないけれど、当面は鉄道事業の分社化だけだ。
将来、一斉に分社化するという方法もあると思うが、鉄道分社化を急いだようにも見える。なぜか。考えられる理由が1つある。「国や沿線自治体から支援を受けるための受け皿」だ。
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