元楽天副社長が作る幼小中“混在校”の武器:本城慎之介、軽井沢風越学園創設への道【後編】(4/5 ページ)
2002年に楽天の副社長を退任して以降、幾多の迷いを経て、本城慎之介氏が最終的に辿り着いた理想の学校。いったい、それはどんな学校なのか? その革新性や武器は何なのだろうか?
実は、風越学園には本城と岩瀬のほかに、もう1人共同創立者がいる。熊本大学教育学部准教授を務める教育学者であり哲学者でもある苫野一徳だ。
カリキュラムの軸としている「自己主導、協同、探究」を言葉にしたのは苫野。苫野が風越学園に参画する以前の著書「教育の力」にも書いてあることで、これを読んだ岩瀬が、「自分がやってきたことを理論化して言語化してくれている」と思い、岩瀬と苫野はつながった。本城も膝を打つ思いをしたことから、苫野も合流した。
哲学者である苫野、実践者である岩瀬、経営者である本城という、この3本の矢は、風越学園の大きな強みだと本城は言う。
「学校作りって1人のカリスマがぐいぐいと引っ張ることが多いけれど、僕らは違う。カリキュラムを作る上でも、説明会をやる上でも、苫野がちゃんと理論的にどうなっているかを裏付け、血の通った言葉で伝えてくれる。それを実践するとどうなるか、岩瀬がきちんと過去の授業の資料やビデオを持っていて、こういう教室になるということを説得力をもって伝えられる」
「でも、哲学と実践だけでは物事は実現できなくて、そこは僕の経営者としての経験や人脈がモノを言うこともある。理論や哲学を夢物語にしないチームが最初からできているというのは、すごく武器だなと思っています」
当然のことながら、理論や哲学を現実にするという点で、本城の豊富な資金力も大きな強みと言える。
豊富な自己資金と、華麗なる人脈
本城いわく、学校設立認可の審査基準は大きく、ちゃんとカリキュラムを担える人材や教員がいるか、土地や建物があるか、そして、安定的に運営できる財政基盤があるかの3つ。
うち、人材面は教育学者の苫野と岩瀬がすでに幹部として存在しており申し分ない。土地は確保済みで設計図もあり、造成工事を始めている。ほかの新設学校が最も苦労するのが、3番目の財政基盤。ここで、企業や篤志家などから寄付を募ったりしているうちに時間がかかってしまうことが多いという。だが、風越学園には本城がいる。巨額の資産の中から建設や人材採用など初期投資に数十億円を費やす計画だ。
「最初にまとまった資金があるというのは、これはもう武器です。本当ありがたいことです。継続的な運営を考えると、奨学金制度も含めていろいろな方に支えてもらった方がいいので、これから協力や寄付を募る活動も始めます」
協力や寄付では、楽天の三木谷浩史やヤフーの幹部など、IT業界に広がる本城の豊富な人脈が効いてくるだろう。三木谷との関係は良好で、楽天が買収した図書館向け電子書籍貸出サービスのプラットフォームを手掛ける米OverDrive(現Rakuten OverDrive)の仕組みを、風越学園の図書館にも導入しようか、といった話が進んでいるという。無論、奨学金などの寄付も期待できるだろう。
こうした武器のおかげで、風越学園はとんでもなく早いスピードで開校準備を進めている。
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かつて三木谷浩史とともに楽天を創業し、副社長を務めた本城慎之介。彼は2002年11月に30歳で楽天副社長を退社して以降、教育畑に転身した。現在は長野・軽井沢の地で幼稚園・小・中学校の混在校である「軽井沢風越学園」の開校を目指している。彼が成し遂げようとしていることの本質を探った。 - 「情熱は大事、ただしそれだけではうまくいかない」 元官僚のベンチャー社長が持つ覚悟
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