幻の鉄道路線「未成線」に秘められた、観光開発の“伸びしろ”:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
建設途中で放棄され、完成に至らなかった「未成線」。現在でもその残骸は各地に残っている。未成線の活用を語り合う「全国未成線サミット」が福岡県で開催された。未成線に秘められた、観光開発の「伸びしろ」とは?
なぜ未成線に? それぞれの地域の事情
赤村以外の参加団体を紹介する。
五新線(奈良県五條市)
第1回未成線サミットの開催地。五新線は和歌山線の五条駅と紀勢本線の新宮駅を結ぶ計画だった。吉野杉の輸送が主な目的だ。しかし太平洋戦争で工事が中断、国鉄の赤字問題などにより建設が進まなかった。結局、途中の坂本駅まで22.5キロの路盤は完成したものの、線路は敷設されず、バス専用路線として開業した。その路線バスも利用者数が少なく減便、トンネルなど施設の老朽化もバス運行の障害となって、バス路線は廃止された。
16年8月、五新線の施設や、沿線の歴史遺産、農林資源の活用を目的にNPO法人「五新線再生推進会議」を設立。年間を通じて気温や湿度が一定のトンネルでシイタケを栽培したり、日本茜染めの再生に取り組んだりしている。「五新線トンネルきのこ」は五條市の特産物として人気があり、年間300トンの生産を目指している。
ビッグイベントは14年から開催されている「木レールイベント」だ。五新線の路盤1キロにわたって木のレールを敷設し、プラレールの車両を走らせる。5回目となる18年3月には1200人の親子が参加した。このレールはプラレールとは異なり、線路の中央にガイドレールを載せるというモノレールに似た方式で、実用新案に登録済み。将来の構想として、レールバイク(自転車)の運行や蒸気機関車の運行を掲げた。
今福線(島根県浜田市)
「今福線」は広島と浜田を結ぶ陰陽連絡線「広浜線」として建設された。広島県側は横川〜三段峡間を可部線として開業させていた。島根県側は山陰本線の下府〜石見今福間が完成終盤で太平洋戦争の影響を受けて休止。戦後は浜田〜石見今福間で着工したけれども、国鉄の赤字問題で工事中止となって現在に至る。この区間のコンクリートアーチ橋は選奨土木遺産の認定を受けた。現在はシンポジウムや遺構の調査研究、見学会の開催などで活用策を模索している。
佐久間線(静岡県浜松市)
「佐久間線」は天竜浜名湖鉄道の天竜二俣とJR飯田線中部天竜を結ぶルートだ。鉱産物と林産物の輸送が目的だった。1979年までに全体の約7割の工事が終わっていたにもかかわらず、80年に国鉄赤字問題によって工事が中止された。第三セクター鉄道も検討されていたという。現在は完成していた橋脚を人道橋「夢の架け橋」として道の駅と共に整備するほか、トンネルを農産物栽培、ワイン倉庫、地震観測用地として活用している。
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