“あ・うん”の呼吸はロジカルシンキングを超えるのか? 日米企業の生産性:幸せと生産性を考える(2/3 ページ)
米国企業と日本企業では生産性の高め方が異なるという。双方の組織で実際に働いた筆者が解説する。
日本企業の生産性の根源は「暗黙知」?
次のモデルでは、日本企業がその特性に根ざして生産性を高めるための可能性を示そうと思います。
私は、数年前に化学系大手企業の一部門としてB2Bビジネスを手掛ける事業部を支援しました。彼らの命題は、成熟した市場で価格競争もあって低下傾向にある利益率を抜本的に改革するというものでした。
いわゆる合理的な手法はほぼ検討し尽くした感もある中、数人で組まれた選抜チームとともに、ワークショップスタイルで、既存の延長線上にはない解を求めて大海に漕ぎ出しました。
そこで着目したのが、数字には現れない、目には見えにくい暗黙的な要素です。チームメンバーそれぞれが誇れる過去の仕事を「自慢話」として出してもらったところ、そこにはどうも共通する何かが存在するようでした。
その共通する何かとは「達成感」という言葉でした。合理的に分析するには縁遠い主観的な概念です。しかし、チームメンバーはその言葉を手掛かりに、顧客にも協力してもらいながら、自分たちの「達成感とは何か」を突き詰めていったのです。
彼らの「達成感」の源は、顧客の先にいる「顧客の顧客」やエンドユーザーからのフィードバック情報から得た洞察を提案に生かすことでした。その後、彼らはこのプロセスから従来とは異なる営業モデルを発見するに至り、一部の顧客プロジェクトでは圧倒的な成果につなげることもできました。
ここで私が支援したことは、彼らの深く潜る「暗黙知」を炙り出し、言葉(形式知)にしていく作業です。そのプロセスは大まかに以下のような流れです。
(1)一人一人のチームメンバーが、先入観やタブーを置かずに、それぞれの想いや問題意識を素直に聴き合い、受け入れ合う関係性を築く。
(2)テーマをこれだと決めつけることなく、メンバーが何となく大事そうな気がすることを、安易に分析してしまわず、曖昧なまま共有する。
(3)対象がはっきりと捉えきれないという渾沌状態に耐えながら、現場における経験や感覚を大事にして、チームで丁寧に交換し合う。
(4)ほのかに見えてくる新たな可能性の芽を見逃さず、イメージの共有に言葉を尽くし、仮説をストーリーにしてみる。
(5)仮説の検証に向けて、迷いなく試行錯誤を繰り返し、そのプロセスをふり返りながら、チームでの気付きを得る。
目に見えるものに特化する米国企業では決して手を出さないやり方でしょう。しかし、日本企業の「暗黙知」を大事にしながら、「形式知」に転換し、生産性の質を高めるこうした方法は、スコラ・コンサルトによる支援の本質と言えます。
関連記事
- 50年変わらない日本人の「生産性」は悪なのか?
この連載では「生産性と幸せ」をテーマに考えていきます。そもそも生産性とは何なのか。私たちの日々の仕事とどう絡めればいいのか。私たち一人一人の幸せと生産性の関係についても触れながら、「なるほど、そういうことか」「これまでとは違う視点でも考えてみたいな」と思うきっかけになれば幸いです。 - あなたの会社の会議はなぜ生産性が低いのか?
チームのコミュニケーションが凝縮される場として「会議」は重要だ。しかしながら、多くの日本企業では会議が生産的でないという悩みを抱えている。そんな会議に共通するのは……。 - 離職率28%だったサイボウズは、どうやってブラック企業から生まれ変わったのか
今から13年前、当時ベンチャーだったサイボウズは20人以上の社員が退社し、離職率が28%となりました。どんどん社員は辞めていくが、業務は山のようにあり、休日出勤も常態化しているといった、いわゆるブラックな労働環境だったという。そこからどうやってホワイト企業に生まれ変わったのだろうか。 - 「社員を管理しない、評価しない」 個人と会社の幸せを追求した社長が心に決めたこと
「ワーク・ライフ・バランス」ではなく「ワーク・アズ・ライフ」。こうした言葉を語る人たちが増えている。TAMという会社は、社員のワーク・アズ・ライフを「仕組みで」可能にしている。社長にその本質を聞いた。 - 世界が知らない“最強トヨタ”の秘密 友山副社長に聞く生産性改革
トヨタがレース活動を通じて働き方改革を推進する理由。トヨタGRカンパニーのプレジデントである友山茂樹副社長へのインタビュー取材によって、なぜそんな大胆な改革が可能なのかを究明した。 - 働き方改革関連法の成立で仕事はどう変わるか?
働き方改革関連法が可決・成立した。国会審議では「高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)」の是非が主な争点となったが、同法案がカバーする範囲はもっと広い。法案の概要と施行後にどのような影響が及ぶのかについて考察する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.