今の私になくてはならない、風変わりな天才のN先生:内田恭子の「日常で触れたプロフェッショナル」(1/5 ページ)
天才と変人は紙一重というけれど、まさにこの人はぴったり当てはまる。私がお世話になっている漢方医のN先生だ。とにかく面白い先生がいるからと、友人に紹介されて、いざ出会ってみると……。
天才と変人は紙一重というけれど、まさにこの人はぴったり当てはまる。私がお世話になっている漢方医のN先生だ。
N先生との出会いはかれこれ3年前。ライターの友人から「とにかく面白い先生がいるから行ってみて!」と紹介されたのがきっかけ。面白い漢方医というだけでノコノコ会いに行く私も私だけれども、ちょうどそのころ良い漢方のお医者さんを探していたのだ。
もともと私の漢方歴はダラダラと長い。ダラダラというのは、本格的にずっと飲んできたわけではなく、ハマると数カ月間は毎日飲むし、ちょっとしたきっかけで2、3日飲まないと、そのままなんとなく辞めてしまう。そしてまたなんかの拍子に飲み始める。それを繰り返してきたわけ。
特に体の調子が悪いわけではなく、手足が何となく冷えるからとかそんな理由。そういうわけでいくつか、ここいいからと薦められる漢方医のところにも行った。そして毎回冷え性に効くといわれる漢方を処方される。
さて、そうやって頑張るときは健気に飲んでいた漢方だけど、正直効いているのかどうかが分からない。何だか体が冷えにくくなってきたような気はするけれど、飲むのを止めてもそこまで違いが分からない。だから何となく漢方歴が長いだけでここまできてしまったのだ。
マニアックで面白い
そうそう、N先生に話を戻そう。N先生はその経歴からして面白い。医科大を卒業後、自衛隊病院で婦人科医長も務めており、産婦人科と漢方の専門医なのである。そして現在は都内の漢方医学センター長として働いている。私の友人曰く、N先生の漢方の見方は本当にマニアックで面白いとのこと。もちろん面白いだけではなく、その処方が抜群に効くとのこと。
忘れもしない初診のとき。扉を開けて入ってくる私をじっと見つめ、椅子に座るまで目を離さない。そして一人で「なるほどね、うんうん。なるほどね」とつぶやいている。すでに面白すぎる。
「先生、何ですか?」
「うん、内田さんみたいな人って、人前に出ると自然にスイッチを切り替えちゃうんだよね」
「はあ」
よく分からない。でもこれは仕方ない。N先生、頭が良すぎるのと、とにかく漢方ラブでマニアックすぎるのと、彼個人の考えがだいぶ入っているので、話がよく分からないことが多々あるのだ。
でも、もともと人の話を半分聞いているような、聞いていないような感じで生きている私は全く気にならない(笑)。そして先生もきっと私が適当に相槌を打っているときは分かるはず。ただ、不思議と先生とのそのおしゃべりが退屈ではない。何回か話しているうちに、ふと雲の隙間から光が差し込むように、いきなりN先生の言語が理解できるときがやってくる。そしてそれが私のツボを妙に刺してくる。
先生の言うスイッチ。あの人、いい気が出てるよね、とか、この場所気が悪いよね、なんて私たちが言うように、先生はその「気」の話をしていたのだ。先生は診察室に入ってくる患者さんたちの気を見ようとしているらしいのだけれど(別に彼がスピリチュアルだとかそういうのではなく、あくまでも漢方医として)、私のような人前に出る仕事をしている人間は、無意識で「人前モード」にスイッチを切り替えてしまうらしい。
なるほど、言われてみればそうだ。クタクタに疲れていても、機嫌が悪くても、身内ではない人たちの前に出ると、急に笑顔になりさわやかな挨拶をしちゃったりする。悲しい職業病。だから、そんな風に切り替えられてしまうと、本当の気が見えづらくなってしまうらしい。面白い。
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