連載
“あの事件”の舞台・新潟県十日町市で味わう自然 「サンクス・ツーリズム」のススメ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/7 ページ)
首都圏に住む人々は新潟県十日町市に借りがある。かつてJR東日本が「事件」を起こしたが、7年前には電力不足を救ってくれた。できれば観光に行こう。暮らしを支えてくれる地域に感謝して訪ねる「サンクス・ツーリズム」を提案したい。
十日町市の見どころ「美人林」「星峠の棚田」
レンタカー店が開店する午前8時ちょうどにクルマを借り、最初に向かった場所は「美人林」だ。丘陵の一角に樹齢約90年というブナの林が広がる。その真っすぐな木々の美しい立ち姿から「美人林」の名が付いた。レンタカーで約30分。信号機が少ない快適なドライブだ。前日のほくほく線からの車窓も見事だったけれど、道路沿いの紅葉も素晴らしい。山肌の色の豊富なこと。ときおり、見事な黄色のイチョウがある。まるでそこだけにスポットライトが当たっているようだ。
こんなに早くから観光客などいないだろうと思っていたら、無料駐車場は9割も埋まっている。美人林に立ち入り、背の高いブナの林に囲まれる。細い幹が、緑、黄、赤の葉で彩られている。見上げれば万華鏡のようだ。色とりどりの葉たちの奥に青空。ここは京都ではないけれど、脳内でBGM『私のお気に入り』が再生される。そうだ。十日町、行こう。
写真家が多い。話を聞くと、早朝の風景、人の少ない景色を撮りたくて、夜明けから写真家が集まるそうだ。ここで夜を明かす人もいるという。水彩や油絵を描く人もいる。大きなワンコがあいさつしてくれる。人は多いけれど、ブナ林の雄大さの中では人は小さい。そして静かだ。野鳥の声、木の葉を踏む音しか聞こえない。
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