すし屋「久兵衛」VS. ホテルオークラ 泥仕合の背後に“下剋上”への脅えと焦り:長浜淳之介のトレンドアンテナ(2/7 ページ)
高級すし店「銀座 久兵衛」がホテルオークラともめている。背景にあるのは高級すし店とホテル業界の競争激化による地位低下だ。転落しようとしている両者が抱く焦りとは。
初代はウニやイクラの軍艦巻を考案
久兵衛は1935(昭和10)年の創業。初代のすし職人・今田壽治氏は、“セメント王”と称された浅野セメント(現・太平洋セメント)社長の浅野総一郎氏に見いだされ、銀座で独立。それまで握りに適さないとされたウニやイクラを、軍艦巻という新しいスタイルで提供し、一躍江戸前ずしの革命児として脚光を浴びた。
久兵衛は陶芸家で美食家の北大路魯山人氏、小説家の志賀直哉氏、政治家の吉田茂氏に愛された。さらに、米国のクリントン元大統領、オバマ前大統領など、今日に至るまで国内外の要人に利用されてきたのは、江戸前ずしの継承者であると共に、革新者でもあったからだ。
2代目である今田洋輔氏の時代になると、高級すしにありがちな“一見さんお断り”の姿勢を否定し、顧客を平等に扱う経営方針を打ち出した。また、値段は時価でなく明朗会計になっており、セールの時はランチを4000円くらいから食べられる。いったんカウンターに座れば3万円以上を覚悟しなければならない高級すし店が多いなか、リーズナブルな対応ができる大衆性も併せ持つ。
「ホテル寿司」のパイオニア的な存在
「古臭い」「気難しい高飛車な職人が握っている」というイメージが強い江戸前ずしとは一線を画し、顧客本位を貫いてきた。銀座本店は新館も合わせ123席を擁し、カウンターだけの小規模店が多い高級すし店とは一線を画す。この異例ともいえる大型店は、観光バスもコースに組み入れるほどの人気を誇っている。
店舗は、銀座本店の他、ホテルオークラ東京、ホテルニューオータニ、京王プラザホテル(東京都新宿区)、帝国ホテル大阪(大阪市)に構えており、「ホテル寿司」のパイオニアでもある。
しかし、近年は大人数の顧客をさばくため、シャリ担当、魚を切る担当、握って接客する担当などと細かく分業することの弊害が目立つようになり、仕事全体が見えない職人が増えたとの批判も聞く。
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