ゴーン氏が「悪者」で西川社長が「男らしい」というおかしな風潮 後編:ゴーンショック(4/4 ページ)
ゴーン氏逮捕については、センセーショナルな事件であったことや、私的流用や公私混同の話がゴシップネタとして面白おかしく報じられたことから、ゴーン氏一人が注目を集める格好となった。しかし企業としての責任にフォーカスすると、どう見えるだろうか?
ゴーン氏の「単独犯説」はあり得ない
常識的に考えれば、ゴーン氏一人で日産の法人としてのお金を動かせるはずもなく、お金を使った痕跡を消すこともできない。
筆者はゴーン氏をかばいたいわけでも、西川氏を個人攻撃したいわけでもない。株主構成などのパワーバランスがゴーン氏の背景にあったとはいえ、日産のような巨大なグローバル企業を一人の経営者が私物化できるはずがない、ということだ。万が一私物化できてしまっていたのなら、それは企業統治=ガバナンス上極めて深刻な問題で、個人の問題ではなく会社全体の問題、役員全員の問題である。
繰り返しになるが、全ての責任がゴーン氏にあるかのような説明には無理があり、過去の私的流用が事実ならば、役員はそれを知っていてもいなくても、責任を免れることは難しいだろう。そして仮に司法取引で役員が刑事責任を問われず無罪放免となっても、民事に関する責任から逃げることはできない。
執筆時点ではまだ事実関係は明確になっておらず、新しい情報が毎日のように出てくる状況だ。そしてゴーン氏は容疑を否認して、合法的に業務を行うよう指示を出していたと徹底抗戦の構えを見せている。今後の動向に注目したい。
執筆者 中嶋よしふみ
保険を売らず有料相談を提供するファイナンシャルプランナー。住宅を中心に保険・投資・家計のトータルレッスンを提供。対面で行う共働き夫婦向けのアドバイスを得意とする。「損得よりリスク」が口癖。日経DUAL、東洋経済等で執筆。雑誌、新聞、テレビの取材等も多数。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」。マネー・ビジネス・経済の専門家が集うメディア、シェアーズカフェ・オンライン編集長も務める。お金より料理が好きな79年生まれ。
関連記事
- ゴーン氏が「悪者」で西川社長が「男らしい」というおかしな風潮 前編
ゴーン氏逮捕の真実は今後明らかにされていくだろうが、私的流用が多々あったことは間違いなさそうだ。しかし、そのような振る舞いをとめることができなかった役員にも責任がある。西川氏らほかの役員の責任はどう捉えたらいいのだろうか? - ゴーン氏逮捕は「ホリエモン、村上ファンドの時よりひどい」 郷原信郎弁護士が指摘
ゴーン・日産前会長の逮捕について郷原信郎弁護士が問題点を指摘。逮捕するほどの案件では無かった可能性や、解明へ公正中立な第三者委員会の必要性を説く。 - 資本主義経済に対するテロ行為 ゴーン問題の補助線(1)
元日産自動車会長、カルロス・ゴーン氏の逮捕を受けて、世の中は大騒ぎである。日仏経済界や政治レベルでの懸案にまで発展しかねない様相を呈している。今回はこの事件について整理してみたい。 - フランス政府の思惑 ゴーン問題の補助線(3)
多くのメディアではルノー日産アライアンスを成功例と位置付けているが、筆者はそれに同意しない。提携以来、ルノーの業績は右肩下がりを続け、日産自動車が新興国で汗水垂らして作った利益を吸い込み続けているからだ。 - 日産リバイバルプランがもたらしたもの ゴーン問題の補助線(2)
1990年代、業績不振に喘ぐ日産自動車にやって来たカルロス・ゴーン氏は、「日産リバイバルプラン(NRP)」を策定して大ナタを振るった。その結果、奇跡の回復を見せ、長年の赤字のトンネルを抜けた。しかし一方で、それがもたらした負の遺産も大きかったという。 - ゴーン氏逮捕の日産、西川社長が緊急会見 不正の要因は「1人に権力が集中しすぎた」
日産自動車のカルロス・ゴーン会長が11月19日逮捕された。報酬を過少申告していたほか、社内経費・投資資金を不正流用していたという。同社の西川廣人社長が会見を開き、事態の一部と今後の動向を明らかにした。 - ゴーン会長の役員報酬、他の企業と比べてどれだけ高いのか データでみる
日産自動車のカルロス・ゴーン会長が、報酬を過少申告していた疑いなどで逮捕された。だが開示されている分だけでも、同氏は過去9年間で累計約90億900万円を得ていた。この金額は、国内上場企業とどれくらいの差があるのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.