ゴーン氏が「悪者」で西川社長が「男らしい」というおかしな風潮 後編:ゴーンショック(3/4 ページ)
ゴーン氏逮捕については、センセーショナルな事件であったことや、私的流用や公私混同の話がゴシップネタとして面白おかしく報じられたことから、ゴーン氏一人が注目を集める格好となった。しかし企業としての責任にフォーカスすると、どう見えるだろうか?
退職金の掲載漏れは逮捕されるほどの重罪か?
前述の2つのルールは、要するに役員の退職金がルールとして確立されていて、なおかつルールに沿った支払いが過去になされているか、そして将来にもなされるか、という事を意味している。
ゴーン氏のように、日産を救済するために特別な形でCEOに就任し、数十億円もの高額な報酬をもらった人は過去にはいない。内規=ルールはあるかもしれないが、支払い実績はないだろう。つまり計上しなくても良いということになりそうだ。
一方で、従来無かった多額の支払いが発生するのであれば計上した方がいいかもしれない。それは株主にとって必要な情報で好ましい対応だからだ。結局は退職金の支払いに関する確実性はどれくらいあるのか? という話になるだろう。つまり50億円もの報酬を、仮に業績が悪化して責任をとって辞めた場合でも払うのかどうか? といった極めてアヤフヤな話だ。
このように考えていくと、まずは社内の議論として、報酬が多すぎるといった批判は無視して普段の報酬を増やし報酬体系をシンプルにすべきでは? 退職金を払うのなら引当金を必ず計上すべきでは? 私的流用や公私混同は疑われるだけで問題があるので疑わしい行為も含めて一切やめるべきでは? といった話し合いが必要になる。
逮捕の前にそういった議論が社内でどれだけ行われたのか、西川氏やほかの役員はどれだけゴーン氏に指摘や注意をしたのか、現段階では不透明だ。
つまり逮捕容疑となった退職金等については計上・記載はした方が望ましいかもしれないが、義務とまでいえるのかどうかはグレーゾーンだ。少なくとも慌てて逮捕するほどの大問題なのか疑問符がつく。ほかの上場企業では全て掲載されているのか。金額が50億円なら掲載義務があり、ケタが一つ少なければ掲載しなくていいという事なのか。
元東京地検特捜部の郷原信郎氏は、逮捕の正当性に疑問がある、ライブドア事件よりも酷いのではないか、と踏み込んだ発言をしている。
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