ゴーン氏が「悪者」で西川社長が「男らしい」というおかしな風潮 後編:ゴーンショック(2/4 ページ)
ゴーン氏逮捕については、センセーショナルな事件であったことや、私的流用や公私混同の話がゴシップネタとして面白おかしく報じられたことから、ゴーン氏一人が注目を集める格好となった。しかし企業としての責任にフォーカスすると、どう見えるだろうか?
役員の退職金に掲載義務はあるか?
例えば、もし多額の退職金をゴーン氏が貰う約束で働いていたとする。これは有価証券報告書に掲載義務はあるのだろうか。
日産の監査を行っていた新日本監査法人は役員の退職金、役員退職慰労金に関する扱いをWebで説明している。
『・会計上、次の要件を満たす場合においては、役員退職慰労引当金を計上することが必要です。
1.役員退職慰労金の支給に関する内規に基づき(在任期間・担当職務等を勘案して)支給見込額が合理的に算出されること
2.当該内規に基づく支給実績があり、このような状況が将来にわたって存続すること』
会計ルールなのでヤヤコシイ説明に見えるが、1または2に該当すれば引当金を積む、つまり「事前に決算書への計上が必要」であると書かれている。
「役員の退職金について社内のルールに基づいて合理的に計算ができるか?」
「社内ルールに基づいて支給した実績が過去にあり、そして将来にもあり得るか?」
この2つに該当しない場合は事前計上の必要はなく「株主総会決議時あるいは支出時に費用計上」、つまり払った時か払うことを株主総会で決めた時に計上すればいいと説明されている。
将来払うべき退職金を「事前に計上」という説明は、会計知識の無い人にはよく分からないかもしれないが、「1000兆円を超える日本の借金は、将来払う年金を考慮すると2倍になる」といった話を聞いたことはないだろうか。これはつまり「将来払うべき費用(年金)」を「現在の借金」として考えていることになる。
これは企業でも同じで「倒産や破産でもしない限り必ず払わなければいけないお金」と考えれば、「借金」も「将来必ず発生する費用」も性質は同じだ。これを会計ルールでは「負債」と呼ぶ。
つまり将来必ず払うと分かっている費用は、今の時点で負債として計上しなければいけない場合もある。なぜならそれが株主や銀行等の利害関係者には重要な情報だから、ということになる。従業員の退職金や企業年金もこのような考えに基づいて適切な額が計上される。
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