野球盤で追い求める“本物” 「9コース投げ分け」進化の舞台裏:「データ野球」も疑似体験(3/4 ページ)
誕生60周年の「野球盤」が、どんどん進化している。最新モデルでは、投手が9コースに投げ分けたり、球速と投球コースをリアルタイムで電光掲示板に表示したりする機能を搭載。このような進化をどう実現したのか。エポック社の古田望さんに聞いた。
きれいなホームランを打つための「バット」
古田さんはこれまでに数々の新機能を野球盤に実装してきたが、特に苦労したものの一つが、10年に発売したモデルから搭載している、新しい「バット」だ。
このバットは最新の野球盤にも使われている。金属製の棒の先端には、ゴム製のラバーキャップが付いている。わずか数センチの部品だが、「開発には1年半ぐらいかかった」という。
バットにこだわる理由は「きれいなホームランを打てるようにしたい」から。その思いは、古田さんが担当になる前からあった。しかし、新しいバットの開発もまた、途中で頓挫していた。「バットの先を平らにして、ボールをすくい上げるようにすれば、ホームランは打てる。それは分かっていたのですが、それではバットに見えません。だから開発は行き詰まっていました」。先輩からその課題を引き継いだ古田さんは、もう一度バットの開発に取り組んだ。
ヒントを求めて野球界の動向を注視していたところ、あるトレンドに目を付ける。それは、アマチュア向けに出回り始めていた、ハイブリッド構造のバット。木製や金属製といった1種類の材料で作られるバットではなく、カーボンなどの新しい素材も組み合わせて、よく球が飛ぶように作られたバットだ。
野球盤のバットもハイブリッドにしたら、うまくいくかもしれない。そう考えた古田さんは、平らにしたバットの先端に装着するカバーの開発を始める。どんなゴムをどのような形で取り付ければいいのか。卓球のラケットに使われるラバーを加工して試作したこともあった。
「ホームランを打てるバットは簡単にできました。でも、飛び具合がイマイチだったんです。目指すのは、きれいな放物線を描くスタンドイン。平らにする部分の角度などを何度も変えて試しました」
市販されているアクセサリーの手作りキットを使えば、簡単に金属を溶かして固めることができると知り、それを使って試作品を手作りした。実際の材料を使った試作品を発注する前に、大まかな形を決めておきたかったからだ。「アクセサリー用なので、5球ほど試し打ちをするとすぐ折れてしまうんです。だから何度も作って試して……の繰り返し。手の皮がむけるほど試し打ちをしました」と振り返る。
試行錯誤を経て完成したバットは、ゴムのラバーキャップをかぶせたことでボールにバックスピンがかかり、より高く、きれいに飛ばすことができるようになった。「みんなが憧れるものを形にするために、妥協はできませんでした」
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