「東大生起業ブーム」の虚実:未来のホリエモンか、単なる“意識高い系”か(3/4 ページ)
東大生の間で起業がブーム。専門サークルも人気だがなぜか大企業への就職が大半。起業自体が目的化している側面もある。
メンバーの多くがGoogleなど大企業へ
記者も11月に都内で開かれた勉強会に参加してみた。この日は日本IBMの社員が講師として登壇しており、約20人の参加者は同社の先端技術を生かした取り組みについての話に真剣に耳を傾けていた。
会に参加した東大生に「なぜ起業したいのか?」と正面からぶつけてみた。いずれも駒場キャンパスで学ぶ教養学部の1、2年生だ。文系の女子学生(20)は「普通が嫌。せっかくこの世に生まれたので自分でしか生み出せないバリューを生み出したいと思った。世の中を良くしたい、その1つの手段が起業」と話す。既にベンチャー支援のプログラムに参加しており、成功したら本格的に起業するという。
理系の男子学生(19)も「IT系の会社が作った物を世界中の人が使っているのにあこがれた。自分も世界の人が使うものを作りたい」と話す。学業もおろそかにしておらず総じて勉強熱心、起業を語るまなざしは真剣そのものだ。
ただ、起業サークルに入った理由を突っ込んでいくと「東大の授業は座学が多くて教授の話をメモを取るスタイル。上から『これが答えだよ』って言われるのに嫌気がさした。そうでなくて自分で手を動かして何かを作りたい」(前述の女子学生)などと、今いる大学の講義や受けてきた教育へのほのかな不満が垣間見えてきた。
別の理系の男子学生(21)は「東大は世界トップレベルの技術を持っているが、アカデミズムではビジネスにそれを出していくのを悪とする風潮がある。社会に還元していく1つの有力な形として起業があった」と、産学連携の在り方への批判をにじませる。
聞いていくと、意外にも彼らの多くは具体的な「ベンチャーでやりたいビジネス」の内容をまだあまり決めていない印象を受けた。そのうえで挙げるのが、東大生の多くが選ぶ大企業というルートへの不信感だ。文系の男子学生(20)は「起業だけを目指しているわけではないが、大企業に入ると自分の能力を発揮するのは限界があると思っている。起業したらやりたくないことも出てくるだろうが、大企業にいるよりは(自分を)譲らなくていいはず」と語る。
一方で「社会人になってから起業するとなると生活の保障はない。でも大学生は親に扶養されている。しかも一度起業するとステータスになり、それで雇ってくれる企業もある」と、一種の就職の手段としてみているという声もあった。
ベンチャーを志して学ぶTNKのメンバーだが、意外にも全員が起業に至るわけではないようだ。サークル代表で自身は早稲田大2年の小川大智さんによると、実際に卒業後ベンチャーを立ち上げる人は例年、2割程度。残りの多くはGoogleなど有名大企業に就職する傾向が強いという。
小川さんによると、メンバーの多くは企業のインターンシップに参加して実務経験も積んでいるという。「その中でサラリーマンにやりがいを感じて就職していくのかもしれない。サークルにいる2年間は社会を知り、本当に起業したいのか『自分探し』する期間なのだろう」とみる。
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