「東大生起業ブーム」の虚実:未来のホリエモンか、単なる“意識高い系”か(4/4 ページ)
東大生の間で起業がブーム。専門サークルも人気だがなぜか大企業への就職が大半。起業自体が目的化している側面もある。
「片仮名言葉」使う学生起業家とあつれきも
TNKの学生たちのように、インターンを通じてビジネスマナーを学び起業に備える若者は多い。ただ、企業で本格的な就労体験を経ず、一足飛びに起業することに大人側からは不安の声も少なくない。
とある大企業が手掛ける著名なベンチャー支援プログラムの担当者は「資料の作り方とかメールの送り方1つで、社会人と学生起業家との間にハレーションが起きることは少なくない」と打ち明ける。「彼らは(ベンチャーにありがちな)片仮名の言葉を多く使う。大企業の社員からすると別の言語で話しているようにみえるようだ。本当は互いに歩み寄らなくてはいけないが……」。
「昔の学生はインド放浪、今は起業」
学生によっては起業自体が目的化しているようにも見える東大のベンチャーブーム。最近まで東大で長く教鞭をとった経験があり、自身も東大出身で人材・組織開発に詳しい立教大学経営学部の中原淳教授は「そもそも人脈も実績も無く、1人で総務や開発もこなすベンチャーの方が大企業より難易度が高い。会社勤めを間に挟めば段階を飛ばさずにいけるのに……」と話す。「彼らのベンチャーに対する思考にはリアルさがないようだ」とみる。
特に東大生がベンチャーにひかれる理由について中原教授は、受験勉強に追われて人生の目標をあまり考えられなかった点もあるのでは、と分析する。「東大に入って目標を達成してしまい、人生に悩む学生は昔から割といた。かつてはインドを放浪したりしたが、今それがベンチャーになったのでは」。
中原教授は現在、企業から人を呼んで立教大生に経営課題を議論させ、会社経営の難しさを体験させるプログラムを実施している。「社会人に怒られたりもして社会の厳しさに触れられるようにしている。やはり真の問題は教育だと思う」(中原教授)。
前述のTNK代表の小川さんも「何者かにならなくてはいけないという強迫観念がメンバーにあるのかもしれない」と打ち明ける。「SNS上で有名な起業家が輝いているのを見て、無名な自分と比較して向こう側に行きたいと思うのかも。昔は大企業に入ることが価値を持ったのだろうが、今の学生はそれで承認欲求は満たされない」。
“最高学府”の若者たちが、高い志を持って自分のビジネスを切り開く。東大発ベンチャーは多くのメディアでそういった文脈で語られてきた。しかし、背景にはそれだけでない学生特有のアイデンティティーへの不安や、早期のキャリア指導が徹底していない日本の教育の問題も透けて見える。彼らの情熱を不幸な結果に終わらせないために問われるのは、ただもてはやすだけでなく将来の適切なキャリア像を示せる、大人側の姿勢なのかもしれない。
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