日本の介護問題、処遇改善よりも効果的な人材不足への対応策を:カギは高技能労働者(1/6 ページ)
高齢化などに伴い、日本では介護人材の確保が困難となっている。その理由の1つには、介護職員の賃金が他産業と比較して低いことが指摘されている。そのため政府はさまざまな処遇改善策を実施してきたが……。
介護人材の確保が困難な理由の一つとして、介護職員の賃金が他産業と比較して低いことが指摘される。そのため政府は、介護産業と他産業との賃金差を縮小させるために、さまざまな処遇改善策を実施してきた。
その結果、2009年度の介護報酬の改定以降、これまでに月額平均5.3万円相当の介護職員の処遇改善が行われた(※1)。しかしながら2017年度(平均)の有効求人倍率(パート含む)を見ると、介護関係職種(※2)は3.64倍と職業計の1.38倍と比較して高く、さらにその差は拡大傾向にあるなど介護分野の人材不足が依然として際立っている(図表1)。
本稿では、介護労働者の大半を女性が占めることに注目し、他産業の女性労働者との間で賃金を比較する。結論を先取りすれば、女性労働者との比較では、介護労働者の賃金は決して低いわけではない。それでも介護労働者の賃金が低いと言われる背景についての考察を踏まえると、介護人材不足を緩和するためには、処遇改善に加えて介護職員の負担軽減を図ることや、家庭との両立支援策を拡充することが重要である。
さらに、より長期的に介護産業の生産力を高め、介護職員の賃金を引き上げていく観点からは、介護ロボットや人工知能(AI)の技術を使いこなして新たな付加価値を生み出すような高技能労働者の活躍できる場を提供することが、介護分野の人材不足解消のためにも必要である。
※1 平成29年度全国厚生労働関係部局長会議資料(1)社会・援護局 説明資料5「3 福祉・介護人材確保対策等について」(2018年1月18日)
※2 「福祉施設指導専門員」、「その他の社会福祉の専門的職業」、「家政婦(夫)、家事手伝」、「介護サービスの職業」の合計。
関連記事
- 残っても地獄、辞めても地獄……多くの日本人が悩む働き方の現実
「会社を辞めるべきか、このまま続けるべきか」。そんな悩みを持つサラリーマンは多いだろう。筆者も相談をよく受けるという。しかしながら、日本の場合は「残っても地獄、辞めても地獄」ということが多々あるので、よほどの強い覚悟が必要なのだ。 - なぜ「優秀な若手」は会社を辞めるのか 調査で分かった、なるほどな理由
昨今のビジネス界では、優秀な若手社員が離職するケースが相次いでいるという。それはなぜなのか。どうすれば防げるのか。リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所の古野庸一所長に意見を聞いた。 - 違反すると懲役刑や罰金刑も! 「残業時間の上限規制」の影響を弁護士に聞いた
2019年4月から働き方改革関連法が施行される。「残業時間の上限規制」など関連法の内容と、企業団体の人事・総務に求められる具体的な対応を、TMI総合法律事務所パートナーの近藤圭介弁護士に聞いた。 - 「働かない」ことばかり注目されている日本は大丈夫か?
15年間勤めた経済産業省を退職し、ベンチャー企業を起業した元官僚が語る「働き方」とは? 第1回は「働かない」ことを重視し過ぎている日本の働き方改革にメスを入れる。 - 「サービス残業は当然」「お前はバカか」――怒号飛び交う“ブラック企業”体験イベントが怖かった
“ブラック企業”の就労体験ができる企画「THE BLACK HOLIDAY」の報道公開が11月22日に開催。参加者は上司・先輩役による暴言などに耐えながら、架空の企業の新入社員として約1時間働く。脚本は事実に基づいて作られており、非常に緊張感のある内容となっていた。
Copyright © Daiwa Institute of Research Holdings Ltd. All Rights Reserved.