日本の介護問題、処遇改善よりも効果的な人材不足への対応策を:カギは高技能労働者(3/6 ページ)
高齢化などに伴い、日本では介護人材の確保が困難となっている。その理由の1つには、介護職員の賃金が他産業と比較して低いことが指摘されている。そのため政府はさまざまな処遇改善策を実施してきたが……。
キャリア10年以上の処遇改善策で十分か?
これまで政府は人手不足を解消するため、介護従事者の処遇改善に重点を置いた介護報酬改定や、介護職員の処遇改善に取り組む事業者に対する交付金措置などを実施してきた。
背景には、介護職員の賃金が、他産業と比較して低いとされてきたことがある。実際に、介護労働者の仕事の満足度が最も低い項目は賃金である(※3)。また、介護関係の仕事をやめた理由にも、「収入が少なかったため」を挙げる離職者の割合が男女ともに小さくない(図表3)。
図表4は一般労働者の平均賃金を比較したものだが、平均年齢や勤続年数の違いはあるものの、2017年の平均賃金(男女計)が全産業計では491万円/年であるのに対し、介護関係職種であるケアマネジャーは377万円/年、ホームヘルパーは314万円/年、福祉施設介護員は330万円/年にとどまるなど、介護の平均賃金は全産業計よりも2〜4割ほど低い。
一般的な産業では、人手不足になれば生産するサービスの販売価格と賃金(労働の価格)を引き上げることで労働需要が満たされる。しかし、収入の大半が3年ごとに見直される介護報酬である介護事業所では、価格調整が遅れがちとなるため、近年のような経済全体が人手不足の環境下では他の産業との賃金格差が目立ちやすい。
政府はそうした賃金格差を是正して介護人材不足を緩和するため、2019年10月に予定される消費税率の引上げに伴う報酬改定において、介護サービス事業所における勤続年数10年以上の介護福祉士の処遇改善(月額平均8万円相当)を行う考えを「新しい経済政策パッケージ」(2017年12月8日閣議決定)で示している。キャリアの長い介護職員の処遇を改善することで、介護人材の定着を促す考えだ。
しかしながら公益財団法人介護労働安定センター[2018]によると、介護労働者全体の平均勤続年数(同一法人での継続年数)は6.7年であり、介護労働者に占める勤続年数10年以上の割合は、管理職を含めても全体の4分の1にすぎない。介護関係の仕事をやめた理由に「自分の将来の見込みが立たなかったため」が多いように(前掲図表3)、介護労働者の賃金は、勤続年数が長くなっても上昇が限定的であることも人材定着を阻む要因である。
その点では、勤続年数の長い労働者の賃金を上げることは介護労働者の定着性を高める面もあるだろうが、平均勤続年数が6.7年という短さからすれば、勤続年数が10年未満の介護職員への対策がより喫緊の課題と考えられる。10年以上のキャリアの介護福祉士を対象とする処遇改善は、介護人材の定着を図る施策としては不十分であるかもしれない。
※3 公益財団法人介護労働安定センター[2018]「平成29年度介護労働実態調査結果について」(2018年8月3日)によると、「現在の仕事の満足度」((「満足」+「やや満足」)の割合から(「不満足」+「やや不満足」)の割合を差し引いたD.I.)は「仕事の内容・やりがい」が45.1%ポイントで最も高いが、「賃金」が▲18.3%ポイントと最も低い。
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