日本の介護問題、処遇改善よりも効果的な人材不足への対応策を:カギは高技能労働者(6/6 ページ)
高齢化などに伴い、日本では介護人材の確保が困難となっている。その理由の1つには、介護職員の賃金が他産業と比較して低いことが指摘されている。そのため政府はさまざまな処遇改善策を実施してきたが……。
家庭との両立支援策の拡充も不可欠
また、前掲図表3に示したように、女性が介護関係の仕事をやめた理由で最も多いのは、「結婚・出産・妊娠・育児のため」(22.8%)である。従って、家庭との両立支援策を拡充することも介護人材の定着には必要だろう。
全産業の女性平均と比較しても、社会保険・社会福祉・介護事業における離職理由(一般労働者+パートタイム労働者)は結婚や出産・育児の割合が大きく、家庭との両立の難しさが労働供給に影響している(図表8)。
近年、事業所内託児所の設置や子連れ出勤の容認のほか、介護施設やデイサービスに認可保育所を併設する介護事業所も見られるが(※11)、家庭との両立支援策の充実を図ることが、介護人材不足の緩和には重要だろう。
これまで介護人材不足の一因として低賃金が指摘されることが多かったが、介護労働者の大半を占める女性に注目した場合、相対的に低賃金と言えない様子が確認できる。そうした状況にもかかわらず介護労働者が賃金の満足度が低い背景には、業務内容の割に賃金が低い、つまり業務負担の大きさに賃金が伴っていないと感じられていることがある。
そのため、介護人材不足を緩和するには、キャリアの長い一部の介護労働者の処遇改善だけではなく、業務負担を軽減することや家庭との両立支援策を拡充することの方が効果があると考えられる。ICTの導入や介護助手の活用による負担軽減策や、出産・育児といったライフイベントとの両立支援策の拡充が、介護人材不足を緩和するカギを握るだろう。
さらに、より長期的に介護産業の生産力を高め、介護職員の賃金を引き上げていく観点からは、介護ロボットやAI、IoTなどの新しい技術を使いこなす力に加えて、課題設定・解決力や異質なものを組み合わせて新たな付加価値を生み出すような高技能労働者の活躍できる場を増やすことが、介護分野の人材不足解消のためにも必要である。それには、介護事業所が従来にない質の高いサービス(保険外サービス)を提供することで、新たな収益を確保できる環境(混合介護)を整備することも不可欠だ。
※11 独立行政法人労働政策研究・研修機構[2018]「JILPT調査 介護労働者の定着・満足度を高めるための事業所の取り組み――ヒアリング調査結果から」『ビジネス・レーバー・トレンド』2018年3月号 p.29(2018年3月)
(石橋未来/大和総研 政策調査部 研究員)
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