ゴーン妻の“人質司法”批判を「ざまあみろ」と笑っていられない理由:世界を読み解くニュース・サロン(3/5 ページ)
日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告の逮捕・勾留に関して、キャロル夫人がいわゆる「人質司法」を批判した書簡を人権団体に送った。刑事司法制度において「自白偏重主義」を貫いてきた日本は、海外からどんな国であると認識されているのか。
トヨタ元役員は“辞職したから”釈放された?
実は、この「曖昧さ」というイメージが広がったケースが少し前にあった。2015年に、トヨタ自動車の外国人常務役員が麻薬取締法違反容疑で逮捕された一件だ。
この事件では、元常務役員で米国籍のジュリー・ハンプ氏が、米国から麻薬成分を含む錠剤オキシコドン57錠を郵便で輸入したとして麻薬取締法違反容疑で逮捕された。本人は、罪の意識などなかったという。
当時の英字報道を見ると、事件そのものだけでなく、ハンプ氏が起訴されずに釈放されたことに注目が集まっていた。要するに、薬物に対して非常に厳しい日本で、麻薬取締法違反で逮捕された米国人が「どうして不起訴になったのか」が話題になっていた。
一例を挙げると、米全国紙であるUSAトゥデイは、日本の弁護士のコメントを掲載。「日本では事件を起訴するかどうかについて検察が大きな裁量権を持っている」とし、「一般人の米国人なら、このケースでは起訴されていたかもしれない。ただ(ハンプは)トヨタの幹部だった。彼女は仕事も辞職した。検察は『十分に社会的制裁を受けた』と考えたのではないか」と報じている。
また英国のガーディアン紙も、弁護士のコメントで「日本では誰が起訴されて、誰が起訴されないのか、答えを出すのは難しい」と書き、ハンプ氏の不起訴をこう分析していた。「ハンプのトヨタからの辞職が、釈放を勝ち取る要因になった可能性がある」
これでは誰が見ても、日本の刑事司法制度が検察の「さじ加減」で決まっているというイメージになるだろう。同じ犯罪でも、人によって起訴か不起訴かが決まる。大企業の役職を辞任したら不起訴になるのか。しかもそれを検察官が独断で決めているとすれば、曖昧すぎるし、明らかに不公平に見える。金持ちと貧乏人、一般人と企業幹部では、検察の扱いがまったく違うということなのだ。
キャロル夫人が日本の当局を批判するのには、こうした不明瞭な部分へのいら立ちもあるのではないだろうか。
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