公共交通が示す「ドアtoドア」の未来 鉄道はMaaSの軸になれるのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)
先進交通の分野で「MaaS」という言葉が話題になっている。自動車業界で語られることが多いが、鉄道とも深い関係がある。「利用者主体の移動サービス」の実現のために、鉄道こそ重要な基軸になるからだ。「ドアtoドア」のサービスを提供するために、鉄道はどうあるべきか。
MaaSはこの文書が発表される2年前、14年にフィンランドで誕生した。技術庁と運輸通信省が連携して次世代交通サービスの在り方を検討し始めて、ここでMaaSという言葉が出てくる。そして16年にMaaSの具現化として「Whim(ウィム)」という名前でサービスを開始した。定額料金でポイントを購入し、アプリで目的地を指定すると、移動経路が表示され、使用する交通手段によってポイントを消費する。
現金からポイントへ、という手順が面倒に思えるし、各交通手段の価格が把握しづらいという不安もある。しかし、各社が運賃を臨機応変に変動し、それを反映させるためには、ポイント制の方が混乱しないで済むかもしれない。ポイントバックなどの利用推進策も各社で足並みをそろえられる。
「Whim」は電車、バスの他、タクシーやレンタサイクルも網羅し、予約手続きも自動的に行う。説明は面倒だけど、使ってみたら便利だよ、というサービスだ。
日本の既存サービスでイメージすると、乗り換え検索アプリで目的地を指定すれば、電車やバスの乗り換えルートが分かり、駅に着くと予約済みのタクシーが待っている。観光地に着くと、そこで周遊するためのレンタサイクルも確保されている。しかも最初に経路を選択した時点で決済が完了しているため、手続きはスマートフォンのWalletシステムやアプリに表示されたQRコードをかざすだけだ。
小田急電鉄が8月に実施した「自動運転バスの実証実験」では、MaaSのトライアルとして乗り換えアプリからバスの予約ができるシステムを運用した(出典:小田急電鉄ニュースリリース「自動運転バスの実証実験にあわせてMaaSトライアルを実施」)
WhimのスタートとJR東日本の「技術革新中長期ビジョン」はともに16年。JR東日本の策定作業開始は13年というから、フィンランドとほぼ同時期である。公共交通を統合し、マイカー以外の方法でドアtoドアを実現しようとした。MaaSという言葉が出てくる1年前だ。そして「技術革新中長期ビジョン」にMaaSという単語は出てこない。MaaSは学術用語のような扱いで、一般に浸透する言葉としては説明が必要だからだ。慎重に扱わないと、「Web2.0」や「ユビキタス」のような死語になってしまう。
関連記事
- 「ひかり」を再評価、ロマンスカーの心地よさ…… 2018年に乗ったイチオシ列車と、2019年期待の鉄道
2018年も全国各地の列車に乗った。観光列車には「つくる手間」をかけることの価値を感じ、新幹線では「ひかり」の良さをあらためて実感、新型の特急列車には期待感を持った。19年も乗りたい列車がめじろ押し。どんな発見があるだろうか。 - MaaSと地方交通の未来
地方課題の1つに高齢者などの移動手段をどうするかという話題がある。そうした中で、MaaSやCASEが注目されているが、事はそう簡単に進まないのではないだろうか。 - 東急・相鉄「新横浜線」 新路線のネーミングが素晴らしい理由
東急電鉄と相模鉄道は、新路線の名称を「東急新横浜線」「相鉄新横浜線」と発表した。JR山手線の新駅名「高輪ゲートウェイ」を巡って議論が白熱する中で、この名称は直球で分かりやすい。駅名や路線名は「便利に使ってもらう」ことが最も大切だ。 - 自動運転路線バス、試乗してがっかりした理由
小田急電鉄が江の島で実施した自動運転路線バスの実証実験。手動運転に切り替える場面が多く、がっかりした。しかし、小田急は自動運転に多くの課題がある現状を知ってもらおうとしたのではないか。あらためて「バス運転手の技術や気配り」の重要性も知った。 - 東急の鉄道分社化で「通勤混雑対策」は進むのか
東急電鉄が鉄道事業を分社化すると発表し、話題になった。この組織改革は「混雑対策への大きな一歩」になるのではないか。対策に迫られている田園都市線渋谷駅の改良につながるかもしれない。なぜなら……
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.