公共交通が示す「ドアtoドア」の未来 鉄道はMaaSの軸になれるのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
先進交通の分野で「MaaS」という言葉が話題になっている。自動車業界で語られることが多いが、鉄道とも深い関係がある。「利用者主体の移動サービス」の実現のために、鉄道こそ重要な基軸になるからだ。「ドアtoドア」のサービスを提供するために、鉄道はどうあるべきか。
公共交通機関の理想「ドアからドアへ」へ向けて
自動車のメリットは「ドアからドアへ」。これに対して鉄道などの公共交通機関は「クルマより大人数で、クルマより速く、クルマより安全に、クルマより安く」というメリットがあった。逆に言うと、公共交通機関のメリットよりも「ドアからドアへ」を魅力に思う人々がクルマを買っていた。
では、MaaSによって、公共交通機関に「ドアからドアへ」が実装されるとどうなるか。マイカーを必要としなくなる。運転する労力が不要、クルマの購入費や諸費用も不要。楽に移動でき、経済的で、社会的に見れば排気ガスなどによる負荷も減る。地球に優しい。そこで、クルマ側はどうするかというと、「ドアからドアへ」を楽にするために、シェアカーに取り組んだり、自動運転車を開発したりしている。これは個人所有車としての販売メリットもあるけれど、MaaSの一部になるためでもある。
最も理想的なMaaSの暮らしをイメージしてみよう。あなたが友人と連絡を取り合い「海辺のペンションに泊まって釣りでも楽しもうぜ。○月○日、午後3時に現地集合で」と、電話やメールで伝え合う。そのメッセージ内容や音声を解析して、MaaSシステムが海辺のペンションを予約し、そこに至るまでの交通手段の経路を示す。利用者が経路を選択すれば、乗り物の指定席の手配も完了する。
出発の当日、あなたが玄関のドアを開けると、そこには自動運転のレンタカーが待っている。短距離ならこのクルマで現地に行くという選択肢もあるだろう。しかし、よほどクルマ好きではない限り、数時間のクルマ移動は窮屈だ。そして1人を運ぶ手段としてクルマはコストが掛かりすぎる。従って、クルマは最寄りの駅に向かう。
最寄り駅から近郊電車に乗り、そしてターミナル駅から新幹線や特急電車に乗り継ぐ。到着駅からはバスに乗り、ペンションに近いバス停で降りると、また自動運転のレンタカーが待っていてくれる。天候が良ければレンタサイクルやレンタルオートバイを選べるかもしれない。レンタカーを選んだ場合、別の方向から来た友人と合流できる。
しかも、この一連の移動の中で、あなたはお財布から現金やクレジットカードを取り出す必要がない。次の乗り物は何時だっけ、運賃はいくらだっけ。そんなことは考えないで、車窓や友人との会話を楽しめば良いし、もちろんお酒を飲んで居眠りしてもいい。
これがMaaSの理想の姿であり、今すぐは実用化できなくても、一歩ずつ着実に進んでいく「未来の交通」である。この最終目標をイメージしておけば、MaaSに関する個々の取り組みがどの部分に当てはまるか分かる。MaaSのあらゆるニュースが理解できるだろう。例えば、乗り換え検索アプリの片隅に「MaaS」というボタンが現れる。そこを選択すればものすごくラクになる。そんな日が来るだろう。
JR東日本と東急電鉄が実施する観光型MaaSの概念図。19年春の「静岡デスティネーションキャンペーン」の一つとして伊豆エリアで実施予定。利用者向けにはもう少し楽しそうな絵を見せないと……(出典:ニュースリリース「JR東日本と東急電鉄が『観光型MaaS』により、シームレスな新しい旅を実現します」)
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